画像圧縮技術の応用
地域医療連携を支援する技術へ

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青森 久 准教授

 現在、日本は少子高齢化社会を迎え、医療を取り巻く社会情勢が急速に変化しています。このため、各都道府県は地域の医療資源の効率的な配分を目的に地域医療構想を策定中です。 今後、病床の再編や病院の機能分担などの動きが活発になり、医療が一つの病院で完結する「病院完結型」から、患者の症状に応じて施設を移動しつつ医療サービスを受ける「地域完結型」に転換することが予想されます。これに伴い、検査画像などの診療情報(医用画像)を電子化し共有する施設間連携や遠隔画像診断の動きが加速しています。また、ここ数年、組織や細胞の検査から得られる病理画像を電子化する動きも活発です。

 医用画像はレントゲン、超音波、内視鏡、CT、MRIなどの検査機器で電子的に取得されます。診療の際に使用した画像は最低でも法定保存期間である5年間原本を保存することが求められていることから、医用画像の圧縮には可逆圧縮(完全に元に戻る圧縮方式)が利用されています。また、医用画像の保存形式は国際標準規格であるDICOM形式が一般的です。DICOM形式の内包データ(無圧縮の医用画像)は静止画像圧縮の国際標準規格であるJPEG2000で可逆圧縮されます。この圧縮方式は、1つの圧縮データから様々な大きさの画像を取り出すことができることから、スマートフォンやタブレットが積極的に利活用されている現在の医療現場との親和性が高い反面、 最先端の画像圧縮方式と比べると圧縮率は大きく劣ります。

 上で述べた方法で電子化された画像は、PACSと呼ばれる医療用画像管理システムを通して、院内での診断、施設間での診療情報の共有や遠隔画像診断などで利活用されています。 近年の検査機器の高性能化は、高い精度での検査を可能にしましたが、1回の検査で撮影する画像データが増大するという問題を新たに生じさせています。大病院となると年間で100TB~200TBもの画像が蓄積されることから、大容量の記憶装置を確保できなければ診療を中断せざるを得ないという事態に直面します。また、検査データの大容量化により施設間連携や遠隔画像診断などのネットワーク利用の際にネットワーク帯域を占有しやすいという課題もあります。

 このように医用画像は、地域完結型医療を実現するための重要な役割を担うことが期待されていますが、現状では検査機器の高性能化にDICOM形式の圧縮率が追いついていないことが大きな問題となっており、その改善が急務です。そこで我々は、人工網膜ネットワークであるセルラーニューラルネットワーク(CNN)と進化計算を組み合わせた新しい画像圧縮技術の開発に取り組んでいます。この技術はJPEG2000と同様に1つの圧縮データから様々な大きさの画像を取り出すことができ、さらに圧縮率が高いという特徴を有します。今後の医用画像の電子的な利活用が本格化する時代において、我々が進めている研究の成果が活用されていくことを期待しています。

青森 久 (あおもり ひさし)・中京大学工学部准教授

画像符号化、知的情報処理

上智大学大学院理工学研究科電気・電子工学専攻博士後期課程修了・博士(工学)

1977年生まれ

2018/10/11

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