地方自治体の公文書管理の課題
職員の意識向上のため、公文書管理条例を制定すべし!

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桑原 英明 教授

 国の公文書管理の問題が世間をにぎわしている。既に廃棄済みであるとしていた公文書が、庁内を探してみると保存されていた。果てには、地方出先機関に詳細な経緯が保存されていたにもかかわらず、本省の指示で大幅な削除等を求めた上で、決裁文書を改ざんする事例も現れた。唖然とするばかりであるが、国の行政機関等は既に公文書管理法が適用されており、いずれこうした課題に対処するために法律改正等の規制を強化する方策がとられることは疑いのないところである。

 

 他方で、地方自治体に目を向けてみると、国の公文書管理法は、地方自治体に対しては、条例制定を努力義務として求めているに過ぎない。大方の自治体は、公文書管理条例の制定に前向きとは言えない状況にある。確かに、平成29年10月1日現在の、総務省の「公文書管理条例等の制定状況に関する調査(平成30年3月)」によると、「公文書管理条例等を制定済み」とする団体は、都道府県では46団体で97.9%、指定都市では15団体で75.0%、市区町村でも1568団体で91.1%となっており、一見すると「高い」制定率であると思える。

 

 しかしながら、実は公文書管理「等」というのが味噌で、報告書の中身をよく読んでみると、「等」には、「規則・規程・要綱等、その他」が含まれている。このため、これらの「等」を差し引くと、同条例を制定済みであるとしている団体は、都道府県で5団体(10.6%)、指定都市で4団体(20.0%)、市区町村では12団体(0.7%)に過ぎないことがわかる。さらに筆者の調査によれば、指定都市の中でも、1団体は自団体で制定済みの庁内文書の情報セキュリティの確保を定めた条例を公文書管理条例であるとして回答しているから、これを除くと、指定都市では3団体(15.0%)での制定にとどまっている。もっとも、総務省も、この調査にあたっては、公文書管理条例とはいかなる条例であるかを明確に定義している訳ではないから公文書管理条例であると回答した団体を責めることはできない。

 

 言うまでもなく、公文書管理の条例化を図るためには、二元代表制をとる日本の地方政治制度においては、首長部局だけではなく、他方の代表機関である議会での審議・可決を不可欠とする。このため、指定都市の中でも、公文書の廃棄やそもそも公文書を作成していなかったために何も記録が残されていなかった事例(大阪市)や、新たに公文書館を設置するに際して、審議会の答申を受けて公文書管理条例を制定した事例(札幌市、相模原市)でもなければ、多くの自治体にとって同条例を制定するインセンティブは働かないといえる。しかし、こうした実態であるがゆえに、多くの行政職員にとって公文書は、自分たちにとっては課内の執務文書であって、用務が終われば廃棄するものだという意識を変えることは容易なことではない。まずは職員の意識改革のために、地方自治体は創意と工夫に満ちた公文書管理条例を制定すべきだと提言したい。

桑原 英明(くわばら ひであき)中京大学総合政策学部 教授

行政学・地方自治論
慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程修了
法学修士
1958年生まれ

2018/08/01

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