社債管理補助者の創設
社債管理者との線引きが必要

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森 まどか 教授

 今年2月、法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会が公表した「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」(以下「試案」)にて、社債管理者不設置債(以下「不設置債」)についての社債管理補助者制度の創設が提案された。4月半ばに意見聴取が終了し、現在、法律案要綱作成に向け審議が行われている。

 会社法上、無担保社債を発行する場合には、原則として、社債権者保護のため、社債の管理に関する包括的な権限を有する社債管理者の設置が強制されるが、例外的に、自ら社債の管理能力がある機関投資家向けと少人数向けの社債には設置は不要であり(不設置債)、現在、公募社債の約75%を占める。その理由として、社債管理者の広範な権限、厳格な義務及び責任等により、設置に必要な高コストや、なり手確保の困難が指摘されている。一方で、近年、不設置債の債務不履行が発生し、社債権者に損失や混乱が生ずる事例が見られたため、不設置債の管理に関する最低限の事務を第三者機関に委託し、かつ、その法的効果を各社債権者に及ぼすための立法が必要となった。この第三者機関が社債管理補助者(以下「補助者」)である。

 試案によれば、補助者は、裁量の余地が限定的な権限を持つ。発行会社と補助者との委託契約によっても排除できない「ミニマム」な権限は、発行会社の破産手続等での破産債権者等としての債権届出と、社債の管理に関する事項の社債権者への報告である。個々の委託契約により①社債の弁済受領権限、②社債管理者の法定権限(第705条第1項、第706条第1項各号)と同様の権限、及び③発行会社が社債総額について期限の利益を喪失することとなる行為をする権限を必要に応じて追加できるが、②・③の行使には社債権者集会決議が必要とされ、補助者の裁量の余地は狭い。

 発行会社の取引銀行が補助者に就任した場合、発行会社の財務悪化時に、補助者と社債権者はともに発行会社の債権者として利害が対立し、補助者の社債権者に対する誠実義務(社債権者との利益相反において自己の利益を優先させない義務)が問題となりうる。注目すべきは、試案が、誠実義務の具体的内容は、個別の委託の趣旨に照らして決定され、かつ、裁量が限定的な補助者の誠実義務違反が生じる余地は限られるとする点である。一方で、補助者には、①~③以外の権限を委託契約により追加的に付与できる。その権限行使には、社債権者集会決議を要する等、補助者の裁量の限定が企図されているように推測できるが、多様な権限を付与すればそれに伴い誠実義務の具体的内容は不明瞭になりうるし、社債管理者との線引きが曖昧になる。このことが、かえって社債権者に不利益に働く可能性は否定できない。これを避けるために、補助者に付与できる権限を限定することも検討に値しよう。補助者に多様な権限を付与する必要があれば、不設置債に相当する社債であれ、当初より社債管理者を設置すればよい。今後の立法動向を注視したい。

森 まどか(もり まどか)中京大学法学部教授

会社法

名古屋大学大学院法学研究科修士課程修了、米国UCバークレー・ロースクール修士課程修了

1973年生まれ

2018/07/18

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