少子化対策のヒントは愛知県にある
愛知県の出生率を支える要因
松田 茂樹 教授
大都市圏の中で高い愛知県の出生率
わが国は依然として少子化が進行している。人口を長期的に維持するには合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むとみこまれる子ども数、以下「出生率」)が約2以上でないといけないが、2016年の値は1.44にとどまる。国の人口推計によると、出生率が現状程度の場合、人口は2040年に1億1千万人になり、2065年に9千万人を割る。
人口が長期にわたり減少しつづける社会が繁栄することはない。人口減少は労働力および消費者を減少させることによって経済活動を低迷させるほか、年金や介護等の社会保障制度の維持も困難にする。政府は、人口減少を緩和するために、希望出生率1.8を目標として、出生率回復のためのさまざまな施策を推進している。
出生率は都道府県によって相当異なる。最も高い県は沖縄県の1.95であり、最も低いのは東京都の1.24である。出生率は総じて都市で低く、地方で高い。ここであまり知られていないことは、愛知県の出生率は1.56であり、それは大都市圏の中で比較的高いことである。具体的には、東京都よりも0.3ポイント以上、大阪府よりもおよそ0.2ポイント高い。愛知県内の市町村別に出生率をみると、ちょうど名古屋市と豊田市の間に、南北にわたって出生率が高い市がつづいている。
愛知県の出生率を支える要因
愛知県の出生率が比較的高い理由を分析すると、次の3つのポイントがある。第一に、自動車産業をはじめとして競争力の高い各種製造業が集積していることである。強い産業は、若者に良質な雇用機会をもたらしている。全国的にみても、産業が強く、雇用機会に恵まれた地域は、出生率が高い傾向がある。
第二に、愛知県内の自治体は、財政基盤を背景に幅広い子育て支援である。ユニークで特徴的な施策はないかもしれないが、愛知県内の市町村は競いあってさまざまな子育て支援を充実させてきた。子どもの医療費への補助、保育所の拡充、そして結婚支援に取り組む自治体がある。
第三に、親が育児をする際、親族からの育児支援が多いことである。東京都と愛知県の子育てを比べると、愛知県の方が子どもからみた祖父母や叔父・叔母が子育ての世話をすることが多い。これら親族からの育児支援は、母親の育児の負担を減らす。
愛知県から全国への示唆
愛知県のケースは、わが国の少子化対策にヒントを与える。まず、若い世代が安心して結婚して、子どもをもうけることができるためには、国全体の産業競争力を高めて、良質な雇用機会を創出していくことが必要である。また、筆者が統計分析した結果、特定の子育て支援策ではなく、自治体が共働き世帯から専業主婦世帯まで幅広く子育て支援策を行うことが、その地域の出生率の回復に寄与する。さらに、少子化の克服には、政府や自治体の努力のみながらず、親族や地域の人々が、それぞれの可能な範囲で、子(孫)育てにかかわっていくことも大切である。これらの取組がなされたとき、わが国は少子化を克服できるだろう。
松田 茂樹(まつだ しげき)中京大学現代社会学部 教授
家族社会学
慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学
博士(社会学)
1970年生まれ
2018/04/24
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研究・産官学連携
松田 茂樹 教授 |
大都市圏の中で高い愛知県の出生率
わが国は依然として少子化が進行している。人口を長期的に維持するには合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むとみこまれる子ども数、以下「出生率」)が約2以上でないといけないが、2016年の値は1.44にとどまる。国の人口推計によると、出生率が現状程度の場合、人口は2040年に1億1千万人になり、2065年に9千万人を割る。
人口が長期にわたり減少しつづける社会が繁栄することはない。人口減少は労働力および消費者を減少させることによって経済活動を低迷させるほか、年金や介護等の社会保障制度の維持も困難にする。政府は、人口減少を緩和するために、希望出生率1.8を目標として、出生率回復のためのさまざまな施策を推進している。
出生率は都道府県によって相当異なる。最も高い県は沖縄県の1.95であり、最も低いのは東京都の1.24である。出生率は総じて都市で低く、地方で高い。ここであまり知られていないことは、愛知県の出生率は1.56であり、それは大都市圏の中で比較的高いことである。具体的には、東京都よりも0.3ポイント以上、大阪府よりもおよそ0.2ポイント高い。愛知県内の市町村別に出生率をみると、ちょうど名古屋市と豊田市の間に、南北にわたって出生率が高い市がつづいている。
愛知県の出生率を支える要因
愛知県の出生率が比較的高い理由を分析すると、次の3つのポイントがある。第一に、自動車産業をはじめとして競争力の高い各種製造業が集積していることである。強い産業は、若者に良質な雇用機会をもたらしている。全国的にみても、産業が強く、雇用機会に恵まれた地域は、出生率が高い傾向がある。
第二に、愛知県内の自治体は、財政基盤を背景に幅広い子育て支援である。ユニークで特徴的な施策はないかもしれないが、愛知県内の市町村は競いあってさまざまな子育て支援を充実させてきた。子どもの医療費への補助、保育所の拡充、そして結婚支援に取り組む自治体がある。
第三に、親が育児をする際、親族からの育児支援が多いことである。東京都と愛知県の子育てを比べると、愛知県の方が子どもからみた祖父母や叔父・叔母が子育ての世話をすることが多い。これら親族からの育児支援は、母親の育児の負担を減らす。
愛知県から全国への示唆
愛知県のケースは、わが国の少子化対策にヒントを与える。まず、若い世代が安心して結婚して、子どもをもうけることができるためには、国全体の産業競争力を高めて、良質な雇用機会を創出していくことが必要である。また、筆者が統計分析した結果、特定の子育て支援策ではなく、自治体が共働き世帯から専業主婦世帯まで幅広く子育て支援策を行うことが、その地域の出生率の回復に寄与する。さらに、少子化の克服には、政府や自治体の努力のみながらず、親族や地域の人々が、それぞれの可能な範囲で、子(孫)育てにかかわっていくことも大切である。これらの取組がなされたとき、わが国は少子化を克服できるだろう。
松田 茂樹(まつだ しげき)中京大学現代社会学部 教授
家族社会学
慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学
博士(社会学)
1970年生まれ
2018/04/24