スポーツ脳相学!?
スポーツで脳をデザインする未来

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荒牧 勇 教授

 平昌オリンピックで活躍したフィギュアスケートの宇野昌磨選手は、運動制御や運動学習を司る小脳が発達している。近年の脳科学の進展により、こんなことがわかるようになってきた。

 「脳を見れば能力や性格がわかるか?」この問い自体は決して新しいものではない。フランツ・ガルで有名な「骨相学」は、19世紀の欧米で流行した学問である。頭蓋骨を触診すれば、その形状からその人の能力や性格がわかる。ちょっと怪しく聞こえる骨相学であるが、その理論的背景には、脳の特定部位が特定の機能を司るとする「脳機能局在論」があった。この仮説自体はとても先見性のあるものだったが、当時の技術では脳を直接見ることができず、脳を覆う頭蓋骨の隆起から、脳の発達を間接的に推測するしかなかった。また脳の詳細な機能局在もわかっていなかった。この為、骨相学の頭蓋骨と機能の対応付けマップは全くいい加減なものであり、骨相学は衰退した。

 骨相学の隆盛と衰退から200年近くたった現代では,MRIの計測技術と画像解析技術が飛躍的に進歩した。脳の内部構造の詳細な画像化と、洗練された統計解析が可能になったのだ。これにより,脳機能局在論に基づいた「脳相学」ともいうべき骨相学的な発想の研究が復活した。例えば、タクシーの運転手は、空間の記憶に関連する海馬という脳部位が大きいことが報告されるなど,能力・性格といった「個性」と「脳構造」の関係が盛んに研究されるようになってきた。

 そこで筆者は、スポーツに注目して脳相学的研究を進めている。これまで、オリンピアンやパラリンピアンを含む数百名のアスリートの脳構造画像を計測し、スポーツ・ブレイン・データバンクの構築を進めている。例えば、長距離走と短距離走といった競技種目特性と脳構造の関係、試合本番に強い人ほど発達した脳部位はどこか、トップアスリートが発達している脳部位はどこか、といった問いについて研究している。冒頭に挙げた宇野選手の例も、多くの学生アスリートとの比較で明らかになったことである。日々のトレーニングにより、特定の能力を極限まで引き出しているアスリートの脳を解析することで、人間の理解が進むと信じている。

 アスリートの脳の研究だけでなく、一般人の運動と脳の関係についての研究も進める必要がある。近年では、ジャグリングの練習が、物体の動きを認知する脳部位を発達させることや、高齢者がウォーキングなどの有酸素運動をすれば、海馬が発達し記憶力も向上することなどが報告されている。すなわち、脳はトレーニングやコンディショニングで変えることができる。当面の課題は、どのようなトレーニングやコンディショニングが、どのように脳を変化させるかを詳細に解明していくことである。将来的には、筋トレをして理想のカラダを目指すように、トップアスリートの脳や、自分の理想とする脳を目指して、自分で脳をデザインするような時代が来るかもしれない。

荒牧 勇(あらまき ゆう) 中京大学スポーツ科学部・教授

スポーツ脳科学

東京大学大学院教育学研究科単位取得退学、博士(理学)

1972年生まれ

2018/03/08

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