発汗は身体の冷却システム
2020東京オリ・パラ暑さ対策

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松本 孝朗 教授

 暑い日でも仕事をしたり、スポーツをするなど活動ができるのは人間だけである。それは、汗をかくことで上がった体温を下げることができるからである。人間以外の動物のほとんどは、体温を調節するために汗をかくことはできない。

 運動すると筋の収縮により熱が作られ、その熱が血流にのって全身の温度を上げる(体温上昇)。すると、体温を37度付近に保とうとする体温調節反応が駆動される。人の場合、皮膚血管拡張反応と発汗が主たる熱放散反応である。皮膚の血流量を増やし皮膚温を上げることで、周りの空気との温度差を大きくし、空気へ熱を捨てる。汗はかいただけではダメで、皮膚表面で蒸発することではじめて気化熱をうばい、体温を下げる。蒸発せずに滴り落ちた汗を無効発汗と呼び、これは体温調節に寄与しない。100 mlの汗が皮膚の上で蒸発すると、体重70㎏の人の体温を約1度下げる効果がある。人の発汗は最大で1時間に1.5~2Lにも及ぶため、その体温低下効果は非常に大きい。このように、「発汗」は身体にとって強力な「冷却システム」といえる。

 2020年東京オリンピック・パラリンピックは、真夏の東京で行われるため、選手にとっては暑さ対策が重要となる。同時に、大会の運営スタッフやボランティア、国内外からの観客も暑さにさらされるため、マラソンなどの屋外競技の場合、熱中症の発生が危惧される。高齢者は体温調節能力が低下しているため、また、南半球や北欧などからの渡航者は暑さに慣れていないため、特にそのリスクが高くなる。

 東京オリンピック・パラリンピックのマラソンコース(国立競技場⇔浅草雷門)沿いの1km毎の21地点に、携帯型の測定器を設置し、1分毎のWBGT(湿球黒球温度)を記録し、コース上の位置(42地点)を縦軸に、時間を横軸にとり、熱中症のリスク(原則運動中止、厳重警戒、警戒、注意、ほぼ安全)を色で示す「WBGT(時間×位置)マッピング」を作成した。その結果、測定した6日間のうち最も暑かった8月7日と9日では、日射しのある場所では午前7時からWBGT 28~31度(赤色、厳重警戒)、ほとんどの場所で8時からは28~31度(赤色)または31度以上(黒色、運動中止)であった。選手にとっても、スタッフや観客にとっても、過酷な環境である。たとえじっと立っていても、軽度の「運動」に相当することも忘れてはならない。晴れの日と曇りの日とでは大きく異なり、日射しの影響が大であった。スタート時刻を繰り上げることで、選手および観客、スタッフの暴露される暑熱環境が緩和されることが示された。コース沿いの両側のビルの間に大きなテントを張り、コースと沿道に日陰を提供すれば暑さは大きく軽減されるであろう。暑熱環境情報をこのようなマッピングの形で事前に提供し、選手や観客、スタッフの熱中症予防に利用してもらうべく、現在、投稿準備中である。

松本 孝朗(まつもと たかあき)中京大学スポーツ科学部教授

スポーツ生理学、温熱生理学

長崎大学医学部。医師、医学博士

1958年生まれ

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