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研究・産学連携

研究・産学連携 トピックス

アジア大会を市民生活の向上に活かす
街の長期的ビジョンが鍵

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來田 享子 教授

 愛知県・名古屋市での2026年第20回夏季アジア競技大会の開催決定から1年半が経過した。この大会は、アジア・オリンピック評議会が主催する。つまり、アジア競技大会とは、選手たちが自らの努力の成果を確認し、互いの努力を讃え尊重することを通じ、アジア地域の平和と発展の礎を築くという、オリンピック・ムーブメントの一部なのである。ムーブメントの理想は現在のアジア情勢にとって望ましい。一方、市民目線では、税や施設維持の負担への不安がよぎる。

 第1回アジア競技大会は、1951年にインドのニューデリー市で開催されたが、このとき日本は参加することができなかった。以来、アジアが政治的・文化的・宗教的に多様であるがゆえの影響を受けながら、大会は継続されてきた。

 アジアの多様性は、競技種目にも反映されている。セパタクロー、ソフトテニス、カバディ、武術太極拳など、各国で発展してきた競技のほか、新体操では男女両性の競技が実施される。囲碁やチェスのような盤上ゲームが正式競技となったこともある。この大会の特徴は、地域で発達してきた遊びの世界を懐深く受け入れることにより、オリンピック以上に、違いを認め合う場となり得る点にある。

 昨夏、大会が関係地域に与える経済効果は1600億円を超えるとの試算が報じられた。だが、近年のオリンピック研究では、経済効果のみで大会の影響を図るのではなく、正・負両面、有形・無形を総合した影響を「レガシー」という用語で示すようになっている。この用語の登場は、特に欧米において、大会開催の影響をお金に代えがたい財産として積極的に活かそうという意識を高めている。たとえば、アジア45カ国の人々が2週間、愛知県下で共に暮らすために要する知識・理解・工夫を伴う準備は、様々な分野の人と人を繋ぐきっかけになる。直接的な経済効果は得られずとも、こうしたきっかけそのものを「将来に持続する財産」と捉えるのがレガシーの考え方だ。

 負のレガシーを可能な限り削減し、この地域の未来に長く引き継ぐことができる正のレガシーを残すには、どうすれば良いのか。

 2012年ロンドン五輪は、この難問解決に一定程度成功した大会だとされている。ロンドンは、街の東部に住む貧困層の人々の暮らしの安定と地域施設の向上のために、五輪開催を潤滑剤として計画的に利用した。誰もが目を背け、後回しにしてきた課題を解決するために大会開催を利用したのである。この成功事例は「国際大会で儲けよう」という発想や価値観が時代遅れであることを示した。

 アジア競技大会の開催は、中部地区に少なからぬ影響を与えるだろう。巨額の開催経費の有効活用には、「暮らしたい街」に対する市民自身の長期的なビジョンが不可欠だ。ビジョン達成の計画に、大会開催を無駄なく緻密に組み込むことができるかが、成否の鍵となる。大会の開催に批判的な声にこそ、対策を講じられてこなかった街の課題を浮き彫りにする重大なヒントが隠されている、と考えることが必要だ。

來田 享子(らいた きょうこ)中京大学スポーツ科学部教授

オリンピック・ムーブメント史

中京大学大学院体育学研究科。博士(体育学)

1963年生まれ

(2018/01/30)

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