従業員の個性の受け入れがポイント
従業員の自尊感情が行動を決める

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向日 恒喜 教授

 職場での従業員の行動を左右する要因の1つとして従業員の「自尊感情」が挙げられる。自尊感情とは「自己の価値及び能力の感覚」であり、心理学の分野で多くの研究が積み重ねられており、職場の文脈においては「組織内自尊感情」という概念が用いられることが多い。組織内自尊感情とは「組織の成員としての自己の価値及び能力の感覚」であり、海外では多くの研究が報告されている。

 なぜ自尊感情が個人の行動を左右するのであろうか。人間は一般に自尊感情を維持するために行動することから、自尊感情が高い人は、その状況を維持するために自発的に行動すると考えられている。過去の研究において、組織内自尊感情が高い人は、自発的に同僚を援助したり知識を提供したりする傾向が示されており、組織内自尊感情は従業員のポジティブな行動を引き出す要因と考えられている。

 この組織内自尊感情を規定する要因の1つに組織の特性が挙げられ、職場の信頼関係や自律性、組織的支援など、いわゆる働きやすい職場環境が組織内自尊感情を高めることが先行研究で示されている。一方、職場での葛藤や、職務の不安定さなど、いわゆる働きにくい職場環境が組織内自尊感情を低下させることも示されている。良好な職場環境を設けることで、社員に対して「あなたは職場にとって必要だ」とのメッセージを発することになり、結果、従業員の組織内自尊感情が向上するのである。

 ただ、自尊感情の高さだけでなく、自尊感情が根差す領域によって行動が左右されるとの指摘がある。特に、他者からの評価に基づいて自尊感情が形成されている場合、外部の評価基準や有能な他者の存在など外的要因によって自尊感情が大きく左右され、自尊感情から生じる行動もまた不安定になりやすい。そのため、企業が1つの基準のみで個人を評価する場合、従業員の組織内自尊感情はその評価のみから強い影響を受けるために不安定になりやすい。これに対し、企業が多様な基準で個人を評価することで、従業員はいずれかの基準で評価される可能性が高まることから、組織内自尊感情が安定しやすくなる。

 IT企業のサイボウズ(株)は、勤務時間や勤務場所を柔軟に選択できるようにすることで、従業員が、育児や夜間大学院での学びなど、仕事外の活動に関わりやすい環境を提供している。育児のために休業したり時短勤務を選択したりした従業員は、最初は仕事から取り残されるとの焦りや、職場に迷惑をかけるとの後ろめたさを感じやすい。しかし、会社が育児と仕事の両立を認めてくれていることを実感することで組織内自尊感情が高まり、育児に取り組んでいる自分を受け入れて育児に前向きに取り組むことがでるとともに、育児での経験を仕事にフィードバックすることにつながっている。

 企業は多様な側面から従業員を評価し、それぞれの従業員の個性を受け入れ、その個性を伸ばす努力をすることで、従業員の組織内自尊感情が高まり、自発的な行動が引き出されていくのである。

向日 恒喜(むかひ つねき)中京大学経営学部教授

経営情報

大阪工業大学大学院工学研究科修了、博士(工学)

1967年生まれ

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