研究開発費の適切な管理
ブラックボックスの解明を

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齊藤 毅 講師

 多くの専門書に記載がある通り,かつての日本の高度経済成長期を牽引したのは,自動車産業や家電産業をはじめとする製造業であった。戦後間もない頃の人々の多くは,自動車,洗濯機,テレビ等の「モノを手に入れる」という行為そのものに対してニーズを抱き,これらのニーズに応えることで,日本の製造業は発展を遂げてきた。

 一方で,高度経済成長期のような,いわゆるモノを作れば売れる時代は終焉を迎え,現代ではモノが溢れている。人々のニーズは,「モノを手に入れる」という行為そのものから,「安いモノを手に入れる」や「特徴あるモノを手に入れる」といったモノの付加価値に対して向かうようになった。この点は,高度経済成長期以降に急速に発展を遂げてきた,サービス業でも同様であろう。すなわち,顧客ニーズが多様化した現代において,企業が生き残るためには,多様な顧客ニーズを満たすための製品・サービスの開発とそれらを支える研究開発がカギとなる。

 しかし,近年の日本企業の多くは研究開発に苦しんでいる。より正確に言えば,投入した研究開発費が利益に結び付いていない,つまりは研究開発の効率性が著しく低下している現状がある。この点について,経済産業省が2016年度に実施した産業技術調査事業「研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)」の報告書を参照すると,近年の日本企業における研究開発の効率性は,先進国5か国中(米国,英国,仏国,独国,日本)最下位であった。1990年には英国,仏国と並びトップ水準にあったものの,その後の著しい低下を受けて,2000年前後を境に最下位に転落している。近年の日本企業においては,いかに無駄なく効果的に研究開発費を活用していくかが喫緊の課題となっている。

 このような産業界の現状があるなか,学術領域ではどの程度,研究開発費の管理に関する研究が進んでいるのだろうか。この点に関しては,残念ながら研究が不足していると思われる。研究開発費に関する主たる研究領域として,筆者が専門とする会計学の研究領域があるが,会計学の領域でも研究開発費については,帳簿上の処理方法に関する議論が多く,計画段階にどのように研究開発費を見積り,実行段階にどのように運用していくかについては,議論が停滞していると見受けられる。すなわち,研究開発費の適切な管理方法については,ブラックボックスのままであるといっても過言ではなく,解明の必要性は,前述した産業界の現状から火を見るよりも明らかであろう。

 ウォークマンを生み出したソニーをはじめとし,かつての日本企業は研究開発において世界をリードする立場にあった。だが,近年では,アップルやアマゾン,サムスンといった海外の企業に押されている現状は否定できない。かつての勢いを取り戻すためにも,産官学が一丸となって,ブラックボックスの解明に取り組むべきではないだろうか。

齊藤 毅(さいとう たけし)中京大学経営学部講師

管理会計

明治大学大学院経営学研究科博士後期課程,博士(経営学)

1984年生まれ

2017/12/14

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