後を絶たない不適切会計
粉飾決算の動機と手口とは?

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矢部 謙介 教授

 近年、企業による不適切会計の事例が後を絶たない。2016年以降に限っても、昭光通商、日本カーバイド工業、船井電機、パスコ、テクノメディカ、ホウスイといった会社が、不適切な会計処理を理由に日本証券取引所グループに対して改善報告書を提出している。不適切会計には、過失によるものと意図的に行われるものがあるが、特に意図的に行われた不適切会計を粉飾決算と呼ぶ。2015年の東芝や2016年の富士ゼロックスにおける粉飾決算の事例は記憶に新しいところである。

 これらの不適切会計が発覚した会社はすべて一部上場の、いわゆる大企業に類する企業ばかりである。会計監査が行なわれている上場企業でもこうした不適切な会計処理が行なわれているわけだから、会計監査の入らない中小企業ではなおさらである。

 なぜ、このような粉飾決算が行なわれるのだろうか。

 中小企業の場合、業績不振に伴う金融機関からの融資打ち切りを避けるために粉飾決算が行なわれるケースが多く見られる。また、例えば建設土木業の場合には、業績が公共工事の入札資格の審査に影響するため、こうした審査をクリアするために粉飾決算が行なわれることがある。上場企業の場合は、自社の株価維持を目的に粉飾が行なわれることが多いようである。

 粉飾決算は、主に売上や利益を実態よりも過大に見せることを目的に行なわれる。そもそも、会計処理の方法には裁量の余地が認められており、会計処理方針の違いによって売上や利益は変動する。しかし、ここで言う粉飾決算、あるいは不適切会計とは、適切な会計処理の範囲を逸脱してしまったものを指す。

 粉飾決算の代表的な手口としては、①売上を過大に計上する、②費用を過少に計上する、という二つが挙げられる。

 売上高を過大に見せる際に行なわれる代表的な手法の一つに、「循環取引」がある。これは、複数の会社の間で同じ商品の売買を回していく取引のことを指す。粉飾を行なう企業は、循環取引を行なうことによって売上と利益を水増ししようとするわけだから、購入価格より販売価格が高くなるように取引価格を設定する。したがって、この取引を回していくと商品の価格は、例えば10万円、20万円、30万円、40万円、50万円......と、どんどん高くなり、取引金額が大きく膨れ上がっていく。その過程で、循環取引に関わっていた会社の一つが経営破綻をすれば、巨額の売上が回収不能となり、こうした循環取引は破綻を迎える。また、こうした取引が、監査や内部告発などを通じて発覚し、破綻を迎えるケースもある。

 費用を過少に計上する際によく使われるのが、売上原価を過小に計上する手口である。売上原価とは、製品の製造や商品の仕入などにかかるコストのことである。この売上原価は、期首在庫に期中の在庫仕入を加えたものから、期末在庫を差し引いて計算される。ここで、何らかの方法で期末在庫を過大に計上すると、売上原価が過少となり、利益を過大に見せることができる。しかしながら、これを繰り返していくと、毎年過大な在庫が雪だるま式に積み上がってしまうことになる。あまりに在庫金額が膨らめば、貸借対照表は不自然な姿となり、ここから粉飾決算が発覚しまうのである。

 拙著『武器としての会計思考力 会社の数字をどのように戦略に活用するか?』(日本実業出版社)において詳しく述べているが、こうした粉飾決算を見抜くためには、回転期間分析やキャッシュ・フローの分析が有効である。財務データを使ってこうした分析を行なうことで、粉飾決算が行われている可能性を探ることができる。

矢部 謙介(やべ けんすけ)中京大学経営学部 教授

経営分析、経営財務
一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了
博士(商学)
1972年生まれ

2017/11/24

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