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研究・産学連携

研究・産学連携 トピックス

人手不足と賃金
将来は働き方の変化も影響するか

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風神 佐知子 准教授

 団塊の世代の本格リタイアがはじまり、飲食店やコンビニ店員など、われわれの身近なところでも人手不足の話が聞かれるようになった。有効求人倍率(仕事を探している人ひとりに対していくつの求人があるか)は6月には1.5を超え、6月以降の失業率は2.8%で推移している。他方で、賃金はなかなか上がらないとの声も聞こえてくる。

 毎月勤労統計による昨年のきまって支給する給与の前年比増加率は0.2%(実質0.3%)であった。これは、昨年の失業率(3.1%)と同程度の失業率であった1994年(失業率2.9%)と95年(同3.2%)には2.0%(実質1.5%)、1.5%(実質1.9%)の増加であったので、ここからも最近の賃金の上昇率は小幅であることが窺える。働いてくれる人を探している企業が多く、仕事を探している人が少ないのであれば、企業は人を集めるために高い賃金を提示するようになり、賃金は上昇するはずである。しかしながら、大幅な賃金の上昇が見られないのはなぜだろうか。

 これまでに様々な研究者が論じている要因をいくつかみていこう。一つは、労働者の構成ゆえである。非正規雇用者が増加すると、労働者全体の平均では上昇幅は小さくなる。また、定年を迎えた賃金の高い労働者の市場からの撤退数の方が、新たに市場に入ってくる賃金の低い若者の数より多いので、全体の賃金上昇幅は小幅となる。パート時給は2%以上の上昇を続けているが、配偶者控除や配偶者手当を受けられる範囲内の所得に収まるように労働者が労働時間を抑制すると、年間所得の上昇は抑制される。

 さらに、女性や高齢者の労働供給はこれまでのところ十分にあり、賃金を上げなくても次々と働きたい人が現れるのならば、それが止まるまでは労働供給は無限であり、賃金は上昇しない。もっとも、女性や高齢者に限らず、そもそも失業率が今よりもさらに低下すると賃金率は上昇し出すとの見方もある。

 二つ目は、経営環境の変化による企業の行動変化である。成果主義の導入や社会保障負担の増大は、賃金上昇となり辛い。また、一度賃金を上昇させるとそれを低くするのは労働者の士気低下などに繋がり困難であるため、企業はなかなか賃上げへ踏み切らないとの見方もある。

 三つ目は、賃金は人手不足(失業率)以外の要因も受けるので、物価が上昇しなかったり労働生産性がかつてより低迷していたりするのならば、なかなか上がらない。四つ目としては、飲食店などコスト削減圧力が高まり、賃金を下げることで離職が進み、人手不足感は高まるが、高い賃金では雇わない(労働需要は高くない)現象が起きているとの見方も挙げられる。五つ目は、昨今就業者の増加している介護分野や、待機児童が問題になっている保育士の給与は、介護報酬制度など制度により決まり、労働需要量によって決まっていない。

 これに加えて、将来的には働き方の変化も影響を与える可能性について言及しておきたい。生産年齢人口の急速な減少と長寿化に備え、兼業や副業、高齢者の緩やかな働き方などが模索されている。古来、アダムスミスの国富論の頃から、主たる仕事とせずに2つ目の仕事として働くならば、少ない賃金でも喜んで働くことが指摘されている。様々な人が自分に合わせた働き方をして、生き生きと生活することのメリットはもちろん大きい。仕事の住み分けや、労働量の大きさにもむろん拠るが、働き方の変化は賃金の在り方にも影響を与える点を挙げておきたい。

風神 佐知子(かぜかみ さちこ)中京大学経済学部 准教授

労働経済学
慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程満期単位取得退学
博士(商学)
1980年生まれ

(2017/10/11)

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