子どもの貧困と教育格差
貧困の連鎖は社会の損失

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中山 惠子 教授

 2017年6月、子どもの貧困率は12年ぶりに改善し、13.9%となったと厚生労働省が公表した。17歳以下の子供の7人に1人が生活に困窮している計算である。貧困には、最低限の生存条件を欠くような絶対的貧困と、その地域や社会において普通とされる生活を享受できない相対的貧困がある。わが国で扱う貧困は後者を指し、等価可処分所得の中央値の半分(今回は122万円)に満たない世帯が該当する。ひとり親世帯の貧困率も若干減少したものの過半数である50.8%に達している。貧困の要因としては、経済成長率の鈍化と子育て世代の所得の減少、雇用形態の変化などがあげられる。

 母子家庭の就労率は諸外国より高いにもかかわらず、平均就労年収は181万円(2011年)と極めて低いのは、非正規雇用が過半数を占めることに起因している。2015年には生活保護世帯数は163万世帯を超え、その世帯主の中には、出身世帯でも生活保護を受給していた者も少なくない。こうした貧困の世代間連鎖が大きな社会問題として浮上している。

 OECDの調査によれば、GDPに占める教育機関への公的支出の割合は加盟国中最低水準にあり、その一方、公的支出に私費負担を合わせた児童生徒1人当たりの教育機関への支出はOECD平均を上回っている。この状況をOECDは、日本では、幼稚園や大学での教育費の私費負担が高額であると説明している。また、文部科学省の2014年度「子供の学習費調査」によれば、学習費総額は、幼稚園3歳から高等学校第3学年までをすべて私立に通った場合は1,770万円、公立の場合は523万円を要する。さらに、家庭教師や学習塾に対する支出である補助学習費は、子どもの年齢や世帯年収が増加するにつれて増加傾向にある。所得格差による教育格差は、学校外教育に顕著である。貧困層の子供の高校・大学への進学率は低く、高学歴者ほど生涯賃金は高いのも現状である。

 所得格差により教育機会の格差が生まれ、貧困が次世代以降まで連鎖するという構造は断ち切らねばならない。生まれた環境によって子どもの選択の幅を狭めてはならない。貧困層にある子どもの教育機会が失われれば、大人になって生み出す所得が減少し、税収、社会保険料等も減少する。定職に就かないか失業すれば、社会保障給付費は財源を圧迫する。子どもの貧困の放置は社会に損失をもたらす。

 子供の貧困対策は、2014年1月に施行された「子どもの貧困対策の推進に関する法律」に基づき、2014年8月に大綱が閣議決定され、関係省庁が連携して取り組んでいる。各自治体も貧困対策計画-例えば、愛知県はあいち はぐみんプラン2015-2019-を策定し、国と足並みを揃えている。子どもを巡る状況は今なお厳しいだけに、我々も貧困の現状を正しく認識し、草の根レベルから貧困の連鎖に向かう必要があろう。

中山惠子(なかやま けいこ)中京大学経済学部 教授

経済理論

名古屋市立大学経済学研究科博士後期課程修了・博士(経済学)

1959年生まれ

2017/09/21

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