ロボットの知覚機能
「名前の認識」から「機能の認識」へ

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橋本 学 教授

 3度目と言われている今回の人工知能(AI)ブームはめざましく、過去のブームで熱狂と落胆の両方を経験した我々の世代からみても、これまで以上の期待感がある。もはや「このブームはホンモノか?」と予測している場合ではなく、この潮流に対する明確な自覚と戦略的な準備なくしては、第4次産業革命とも呼ばれる現代の産業界の変革を乗りきることは難しい。

 とはいえ、ことロボットのための知能に関しては、冷静な現状認識も必要である。現在のAIは、囲碁の世界チャンピオンには勝てるが、テーブルのコップにジュースを注いで持ってくるというような、子供にもできる動作さえ、まだ完全には実現できないからである。

 ブームの火付け役にもなった深層学習(ディープラーニング)という新技術の出現により、コンピュータに1枚の写真を見せるだけで、何が写っているのかを正確に言い当てることができるようになった。これは一昔前には予想もしなかったことであり、脅威さえ感じる。しかし、ロボットが「動作」を起こすためには、目の前の物体の色や形を分析して「コップ」、「ペットボトル」という名前を知るだけでは足りない。コップのどの部分にジュースを注ぐべきか、コップのどの部分をどのように掴むべきかを判断する必要がある。つまり、対象物の色や形という外観情報に加えて、行為のための「機能情報」の認識が不可欠である。

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コップにジュースを注ぐ生活支援ロボット

 我々は、2015年より、産業技術総合研究所・人工知能研究センターとともに、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクト「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」に参画し、この課題に取り組んできた。これまでに、コップなど数種類の日用品に関して「ここは掴むところ」、「ここに水を注げばよい」など、ロボット動作のための「機能」を自動認識することに成功し、この技術を搭載した生活支援ロボット1号機を開発した(写真)。

 ただし、このロボットは、まだ冷蔵庫を探して扉を開け、冷えているジュースを選ぶことができない。ペットボトルのキャップの開け方も知らず、注ぐべきジュースの適量も判断できない。ロボットが子供なみの知能を獲得するためには、まだ数多くの魅力的な課題が残されている。ロボットとの共生社会の実現を目指し、これらの課題に挑戦してくれる若い世代の参入を心より期待している。

橋本 学(はしもと まなぶ) 中京大学 工学部 学部長・教授

ロボットビジョン、知能ロボティクス
大阪大学大学院工学研究科修士課程修了
博士(工学)
1962年生まれ

2017/06/29

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