市場が機能しない居住問題
居住福祉社会を目指せ

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岡本祥浩教授

 日本社会は、3つの嫌な居住問題を抱えている。第一に820万戸の空き家(2013年)と6200人以上(2016年)のホームレスや住居に住めない多くの人々。第二に公民の低家賃住宅の減少と米国の二倍、英国の三倍程度の大量住宅建設水準。第三に障がい者の増加とバリアフリーでないほとんどの賃貸住宅(95.3%、2013年)。住宅が余っていても住宅に住めない。大量に住宅を供給しても価格は下がらない。バリアフリーの住宅を求めている人が多いのにそうした住宅がない。居住問題に市場は機能しない。

 嫌な問題の原因は、居住を妨げている需給双方の高いハードルだ。第一に高い居住費負担。日本の住宅価格は、平均で6.13倍(2014年)の年収倍率。首都圏では71.2㎡のマンションが年収の6.5倍、99.7㎡の戸建てが年収の6.1倍の価格だ。年収倍率6倍の住宅を無理なく取得するには無利子でも25年が必要だ。また政府は年収200万円以下の世帯のうち民営借家居住世帯の平均家賃負担率を37.3%と推計している。この家賃負担水準は、アメリカの家賃補助基準の30%を超えている。極めて高い居住費負担は家計の余裕を奪う。それにもかかわらず一定金額の住居費用の負担が困難な非正規雇用が増えた。バブル経済崩壊以降の長期不況は所得の低下と退職金、年金の減少を招き、居住費負担能力を低下させた。災害は住宅の補修や再建費用で家計を壊す。居住の維持が極めて困難な状況だ。第二に居住支援の必要性の高まりだ。大規模世帯では世帯内の助け合いで生活の困難が解消できた。病気や怪我の時には、誰かに助けられた。世帯内で解決できない問題には、地域や社会の機能を利用した。現在はそれが困難だ。単身、高齢、障害、ひとり親世帯、外国人、...。いずれも支援がなければ暮らしにくく、地域や社会の機能とつながりにくい。近年の世帯変化は、世帯で補ってきた機能の社会化を必要としている。

 居住の実現には、問題の原因を取り除くことだ。

 居住費負担の軽減には住居費扶助や家賃補助の実施が必要だ。愛知県内の年収300万円未満世帯の家賃負担率は30%を上回り(2013年)、直ちに家賃補助が必要だ。家賃負担が軽減されれば、その分を他の活動に振り向けられるので、豊かな社会の創造に役立つ。

 居住支援に関しては「居住支援協議会」に期待が寄せられているが、実質は居住者を中心に居住支援者の顔の見える関係作りだ。日常茶飯の出来事が居住の喪失を招かない臨機応変な対応の仕組みだ。

 その人らしい居住や適切な居住の実現には、住宅や街が暮らしを支えられる空間であり、無理のない費用負担での居住が保障されなければならない。人々の暮らしは社会とのつながりが不可欠で、生活を支える社会機能が活用できる立地やつながりが大切だ。街や国土そのものが暮らしを支える居住福祉空間、居住福祉社会を目指さなければならない。

                                                                                                        

岡本 祥弘 (おかもと よしひろ)中京大学 総合政策学部教授

居住福祉政策                                                                                                                                     神戸大学大学院自然科学研究科修了 博士(学術)                                                                                                                       1957年生まれ

2017/04/06

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