地域経済が支える公共財
コミュニティFMと経営
加藤 晴明 現代社会学部教授

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加藤 晴明教授

 コミュニティFMは、あちこちの街にあるローカルなラジオ局である。大震災や豪雨災害などのたびにその地域密着の活躍が注目されてきた。このコミュニティFMには、人生の転機をかいくぐってきた、まさに「人生の達人」のような魅力的で個性的なパーソナリティが溢れている。年齢も高校生から高齢者まで様々だ。その話題と語りには大きな局のプロの語りにはない独特の生活感・ほんもの感がある。

 災害で役に立ち、日常の放送では個性的なパーソナリティが活躍し、放送局にはいろいろな人がワイワイと出入りする。こんな楽しい事業もない。しかも、最近では、比較的低価格で設備を整えて開局することができる。 

 ところがこの楽しい放送事業にも「経営」の壁がつきまとう。ラジオ局を開局したいと思っている企業人や資本力ある方は多いのだが、この経営をよく分かっている人は少ない。しゃべりと音楽を流すだけでラジオ放送ができると安易に考えているからだ。

 コミュニティFMは、そもそも限られたエリアでの自主番組放送だけでスポンサーを確保しなければならない構造的に困難なビジネスである。加えて厄介なのは、放送の直接の宣伝効果に基づく事業だけではない、ソーシャルな事業という面があることだ。

 株式会社の放送局であれ、NPOの放送局であれ、経営の安定のためには、「このラジオは地域の中で地域のために良い事をしている、そのことに協賛することが、広告企業の社会的貢献としてのアピールになる」ことが共有される必要がある。つまりその事業が地域の人々にサポートされ、「公共財」として認められないと経営の好循環が成立しない。

 業界の方にアドバイスを求められる時がよくある。いつも、「漫然と放送していてはダメですよ。電波に流すことだけが放送だと考えているのではなく、放送局の活動自体が、住民の方に見える存在にならないとダメです」とアドバイスする。事業の「可視化」である。イベント放送は特に重要である。目立つ中継車も地域の人々に分かりやすい。

 また、ラジオ局は地域の人々の広場だ。地域のいろいろな方にゲストで登場してもらう。そのためには、地域の中が活躍している方々との広い交流がなければならないし、登壇させたい価値ある人を発見する目利きも必要である。知り合いが出ているからラジオを聴く人も少なくない。人から人にリスナーはひろがる。これもまた「可視化」であろう。

 地域のための事業が「可視化」され、イイネが拡散する。それが、地元経済人たちが「公共財」として認めてくれることにつながる。「地域に放送局があることのしあわせ」が実感できる、地域のビジネスと地域のハッピネスが循環する街が増えることを願ってやまない。

加藤 晴明 (かとう はるひろ) 中京大学 現代社会学部教授

マスコミ学、地域メディア論
法政大学大学院社会学専攻博士後期課程修了
修士(社会学)
1952年生まれ

2016/12/01

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