学びの多様性の視点から
多様な働き方を考える
森田 次朗 現代社会学部講師
森田 次朗講師 |
現在「働き方改革」の名の下、長時間労働の是正や同一労働同一賃金の導入をはじめ、多様な働き方をいかに実現していくかが論じられている。ここでは、不登校研究という労働問題とは一見無関係にも思える筆者の専門領域の立場から、働き方が議論される際に看過されがちな学び方の多様性という視点の重要性について論じたい。
唐突だが、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律案」(以下「教育機会確保法案」)をご存じだろうか。本法案は、一部の教育関係者を除けば広く知られてはいないものの、「不登校児童生徒等に対する教育機会」を法的に保障しようとする点で、従来の学校法のあり方を刷新しうる画期的な法案だと専門家から評価されており、第190回通常国会から継続審議となっている。
本法案について特筆すべきは、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育を十分に受けていない者の意思を十分に尊重しつつ」、「年齢又は国籍その他の置かれている事情」に関係なく「能力に応じた教育を受ける機会」を確保することが明記されている点である。つまり本法案は、子どもの出席状況や学習進度によらず、年齢に応じて形式的に進級や卒業が決まりがちな日本の義務教育制度を再考し、学校に行かないことで生じる学力や人間形成上の不利益を、学校現場のみならず、学校外の様々な学びの場(民間のフリースクール等)により実質的に解消するための試金石だと言えるだろう。
実は、本法案は今日の働き方改革に関する議論に大きな示唆を与えてくれる。それは、「日本型雇用」を改善するヒントである。働き方改革の議論では、欧米のような職務が明確なジョブ型雇用に対し、「新卒」で一斉に採用された後、定年まで同一企業内での異動や転勤により様々な職種を経験していく、日本におけるメンバーシップ(構成員)型雇用の課題が指摘されている。すなわち、メンバーシップ型では、新卒正社員として一度就職すれば定年まで安定して雇用されるという長所があるものの、職務が明確でないため「全てが仕事」となりやすく、長時間労働が生まれやすくなる。
こうした雇用問題を改善する際に見落とせないのが、年齢主義的な雇用形態は先にみた年齢主義的な教育制度と連動している点である。すなわち、非正規社員の身分保障に代表される多様な労働形態を保障するには、そもそも年齢に応じて一律に進学し卒業するといった教育制度像を再考し、卒業と就職の時期を変更することや、就職後も社会人教育(OFF-JT)のような学び直しの機会を拡充することが必要になる。その意味で、「教育機会確保法案」に関する議論はたんに不登校児童生徒の問題ではなく、広く日本の教育制度、さらには労働改革のあり方を考える際にも重要な視点を提供してくれる。このように、生涯学習の観点から多様な学習機会を保障していくことが、多様な働き方を構想していく際に不可欠である。
森田 次朗 (もりた じろう) 中京大学 現代社会学部講師
教育社会学
京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学
1981年生まれ