管理者側も多様な視点を
考え方の異なる人材の活用
櫻井 雅充 経営学部准教授

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櫻井 雅充准教授

 かつての日本企業の従業員は,会社人間と称されるほど過剰な労働を担っていた。会社人間のイメージは,日本人の勤勉さに支えられていたとされる。一方で,日本人はもともと勤勉ではなかったとも指摘される。明治期に日本を訪れた外国人記者らが報告するように,かつての日本人の働きぶりは非常に怠惰なものであった。怠惰な日本人が勤勉な働きぶりを示すようになったのは,日本的経営の影響である。終身雇用・年功制賃金・企業別組合からなる三種の神器を中心とした日本的経営は,従業員を集団主義者と捉えることで,会社や集団のために働く勤勉な従業員を生み出したと言われる。

 1990年代の成果主義賃金制度が普及して以降,多くの日本企業が人事制度改革に取り組んでいる。新たな人事制度は,自律性や企業家精神をもつ存在として従業員を捉えようとする。こうした改革を通じて,意欲的な人材が働きやすい環境が整えられつつある。

筆者が講義において学生に課したアンケートでは,「どのような人事制度のもとで働きたいか?」との問いに対して様々な意見が寄せられる。大別すると,能力に自信がある意欲的な学生ほど,厳密な成果主義を好む傾向があるようだ。一方で,生活や仕事の安定を求める学生ほど,日本的経営に同意する傾向がある。日本企業にとっての課題は,こうしたタイプの異なる人材をいかに活用するのかにある。

 こうした課題に対して,日本企業が取り得る対応策は二つある。第一に,企業の価値観に合う従業員だけを雇用することである。1990年代にアメリカ企業の取り組みとして広く知られるようになったハイコミットメント・モデルでは,採用の際に企業との相性や学習姿勢などが徹底的に吟味される。換言すれば,従業員を捉える視点を明確にし,その視点に沿った人材のみを採用することを重視するのである。しかし,人材不足が懸念される昨今では,採用予定者数を満たすことが優先されるために,このような採用を徹底することは困難となるだろう。

 第二に,多様な価値観を認めて,多様な人材を雇用することである。近年,日本でも喧伝されるようになったダイバーシティ・マネジメントとは,性別・年齢・国籍・人種などの様々なカテゴリーにおけるマイノリティ(少数派)を活用する取り組みである。日本では,女性活用の文脈で用いられることが多く,また外資系企業を中心にLGBTへの対応が進められるなど,性別の多様性に対する取り組みが目立つ。しかし,本当の意味で多様な人材を雇用するためには,性別以外のカテゴリーにおける多様性にも対応しなければならない。製造業を中心に多くの外国人を雇用している東海地区の企業には,国籍・人種・宗教などに関して先進的な取り組みのモデルケースとなることが求められよう。

 従業員を捉える視点が従業員を形作る。多様な人材の活用に不可欠なのは,管理者側が多様な視点をもつことである。

 

櫻井 雅充 (さくらい ただみつ)  中京大学 経営学部准教授

人的資源管理
神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程単位取得退学
博士(経営学)
1983年生まれ

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2016/08/05

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