女性の仕事を辞めない環境作りが鍵になる
少子化の動向と対策
増田 淳矢 経済学部准教授
増田 淳矢准教授 |
厚生労働省から2015年の人口動態統計月報年計(概数)が公表された。ここで注目すべきは2015年の合計特殊出生率である。
合計特殊出生率とはある地域に住んでいる平均的な女性を想定し、その女性が何人子どもを産んだのかを示した指標である。長期的に人口を維持しようとするならば2人以上の子どもを産む必要がある。実際の日本では1975年以降2人を下回っており、2005年には1.26人という相当低い値であった。
それに対して2015年の合計特殊出生率は1.46人であり、まだ低い水準であるものの2005年と比較すると上昇している。つまり、近年の10年間、少子化は緩和して、子どもを産む多子化の傾向を示している。上昇が始まった2005年はバブル経済崩壊後の平成不況が終了して景気が回復し始めた時期であり、景気の回復とともに少子化が緩和したように見えた。しかし、その後のリーマンショックや東北の震災等の時期であっても合計特殊出生率は上昇しており、少子化の緩和は景気ではなく別の要因である。
合計特出生率の上昇した直接の要因は30代の女性がより子どもを産むようになったことである。20代の女性の出産は現在も減少しており、子どもを産む年齢が高くなる晩産化が起きている。しかし、晩産化することにより少子化が起きているわけではなく、少子化の反対の多子化が発生しているのである。
2000年以降、女性の4年生大学の進学率は上がり、20代女性の就業率は上昇し続けた。このような女性の社会進出が少子化の要因と考えられてきたが、データを見てみると晩産化は発生しても、少子化には結びつかなかった。むしろ、2000年代以降の女性の社会進出は、少子化の緩和を促した可能性がある。
近年は結婚・出産しても仕事を辞めない女性が増えている。このことは一見すると少子化の要因に見えるが、金銭的な観点では別の見方も出来る。現在は教育費用の高騰などにより、子どもの養育費用に不安を覚え、子どもを持つことに躊躇する家庭は多い。共働きの家庭では金銭面での不安は少なく、そのことが要因で子どもを諦める必要がない。このように考えると女性が仕事を辞めない環境作りこそが少子化の脱出の鍵なのかもしれない。
増田 淳矢(ますだ じゅんや) 中京大学 経済学部准教授
経済統計学・数理統計学・計量経済学・時系列分析
神戸大学大学院経済学研究科博士課程後期課程
博士(経済学)
1979年生まれ
出典
「平成26年人口動態統計月報年計(概数)」
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai14/
(アクセス2016/6/1)