消費税増税と選挙制度
世代間公平性の視点から提唱
釜田 公良 経済学部教授
釜田 公良教授 |
2015年10月に予定されていた税率10%への消費税増税は消費低迷と景気後退を理由に1年半延期され、国民の信を問うとして行われた直後の衆院選で与党は圧勝した。さらに、来年4月の増税についても、景気や熊本地震の影響を受けて、再延期されるのではないかという憶測を呼んでいる。軽減税率の議論からもわかるように、消費税は低所得層への過重負担という批判を受けるが、所得階層間のみならず世代間の公平性についても論点をもつ税である.まず、消費税の負担は現役世代と引退世代の双方に及ぶため、所得税と比べて引退世代にとって不利である。さらに、増大する政府債務残高を考えれば、債務はいつか将来、税によって返済されることになるので、増税の先送りは若い世代や将来世代には不利に、高齢世代には有利に働く。
一方、有権者に占める高齢者の割合が上昇するなかで、政府は高齢者に支持される政策を重視せざるを得ない。前述のように消費税増税は高齢世代に不利な政策であるため、なかなか思うように進まないという見方もできる。若い世代や将来世代により配慮した政策を実現するとしたら、どうすればよいのか。この問題意識のもとで、いくつかの選挙制度改革が提唱されている。その一つがポール・ドメイン氏によるドメイン投票方式である。これは選挙権を年齢にかかわらず全国民に与え、子どもは親が代理となって投票する仕組みである(親は実質的に子の分まで票をもつことになる)。ドイツでは、採択はされなかったものの連邦議会でドメイン方式が審議されたことがある。また、井堀利宏氏は『消費増税は、なぜ経済学的に正しいのか』(ダイヤモンド社)で「世代別選挙区」を提唱している。そのエッセンスを理解するために、地域別の5つの選挙区(A,B,C,D,E)があり、Aは都市部で60歳以上が30人、60歳未満が70人の計100人の有権者がおり、他の選挙区は高齢化が進展している地方で、各々、60歳以上が30人、60歳未満が20人の計50人の有権者がいるとする。議員定数はAが2、他の選挙区は各1とする(地域間の一票の格差は存在しない)。このとき、A以外の4つの選挙区では高齢世代に有利な政策を掲げる候補者が当選する(若い世代ほど投票率が低いという事実を考慮すれば、A選挙区でも若い世代に有利な政策を掲げる候補者が当選しないかもしれない)。その結果、60歳以上と60歳未満の有権者の総数はともに150人で同じであるにもかかわらず、議会では高齢者優位の政策が可決される。これに対して、年齢別に「60歳以上」と「60歳未満」の2つの選挙区を設定した場合、有権者数は各150、議員定数は各3となり、それぞれの世代の利益を代表する候補者が3人ずつ当選するため、より若い世代も同等の政治的影響力を持つことになる。この世代別選挙区に地域別の区分けを組み合わせることも可能であり、実際には井堀氏はそのような方式を提案している。世代間公平性を重視しようとするなら、検討の価値がある斬新なアイデアである。
釜田 公良(かまた きみよし) 中京大学 経済学部教授
公共経済学・家族の経済学
名古屋大学大学院経済学研究科博士課程後期課程
博士(経済学)
1963年生まれ