サミット経済効果の測り方
前提条件にも着目する必要あり
山田 光男 経済学部教授
山田 光男教授 |
主要先進国首脳らが集まる伊勢志摩サミットの開催が間近となり、これを機に伊勢志摩の魅力をアピールし、地域経済の活性化につなげる気運が高まるとともに、その経済効果についても関心が集まっている。
伊勢志摩サミットが三重県や周辺地域にもたらす経済効果のうち、サミット開催関連事業に関係するものについては、百五経済研究所(2015年6月)が全国で510億円(うち三重県130億円)、中部圏社会経済研究所(2016年2月)が全国で1,079億円(うち中部9県459億円、三重県329億円)と推計している。また、三重県(2016年3月)も全国で1,071億円(うち三重県480億円)と試算している。
これら推計には、産業連関表という統計が用いられている。産業連関表とは、国または各県などで一定期間(通常は1年間)に、財やサービスが各産業部門でどのように生産、販売されたかを一覧表にしたものである。例えば、自動車産業は鉄鋼・アルミ製品、自動車部品、ゴム製品、繊維製品など原材料や、電力・ガス、金融、輸送、広告などのサービスを購入し、自動車を生産、家計などに販売する。自動車部品産業でも、さまざまな原材料やサービスを調達し、自動車部品を生産する。鉄鋼・アルミ製品の生産も同様である。この表からこのような「販売→生産→調達」の取引連鎖の姿を読み取ることができ、その結果、自動車の輸出が各産業の生産にどれだけの影響をもたらすか経済波及効果が計算できる。
サミットの場合は、関連事業費の支出(会議・警備にかかる電気通信機器、輸送機器、会場となるホテル、レストラン、雑役務委託、会場および周辺整備費用など)に関連した経済波及効果が求められる。当然、対象とする事業費の範囲や規模、支出される内容の見積もりが異なれば、求められる経済波及効果も異なる。また、どのような産業連関表を用いるのか(産業連関表の対象とする年や地域の範囲の違い)も結果に影響する。
サミット開催後は伊勢志摩への注目度が上がり、観光客の増加や国際会議誘致が活発になると期待される。このうち三重県の観光消費増加額については、大和証券(2015年6月)が年平均88億円、百五経済研究所(2015年12月)が年あたり131億円、中部圏社会経済研究所(2016年2月)が年平均239億円増加すると試算している。将来の観光客の増加は、現在の観光客数や洞爺湖サミットの事例などを参考に見積もられるが、外国人観光客に限定するのか、国内観光客も含むのかによっても推計の値が異なってくる。
産業連関表を用いて伊勢志摩サミットの地域にもたらす経済効果を客観的に評価することは好ましいことである。出てきた数値の意味を正しく理解するためにも、どのようにして推計されたものなのか、その前提条件にも目を向ける必要がある。また、これらの結果をみると、三重県だけでなくそれを取り巻く地域への経済波及効果も大きく、地域と地域の経済的なつながりの強さも見ることができる。
山田 光男(やまだ みつお) 中京大学 経済学部教授
計量経済学・経済統計論・産業連関分析
名古屋大学大学院経済学研究科博士課程後期課程修了
博士(経済学)
1952年生まれ