マインドフルネス
今この瞬間をあるがままに受け入れる
坂井 誠 心理学部教授
坂井 誠教授 |
今、欧米ではマインドフルネスが一大ムーブメントとなっています。グーグル、インテル、ツイッター、ゴールドマン・サックスなどの大手企業が、社員のストレス軽減や、仕事の生産性向上などの能力開発のために、マインドフルネスを導入しています。何と、グーグル社員5万人の10人に1人が実践しているとのことです。わが国でも最近注目されてきました。私自身も、心理療法の臨床実践に応用しています。
マインドフルネスとは何か、という明確な定義は難しいのですが、過去や将来にとらわれずに「今この瞬間に、価値判断を加えることなく、能動的に注意を向けることによる、気づき」のことです。その起源は、初期仏教の瞑想法、特にヴィパッサナー瞑想にまで遡ることができます。ちなみに仏教瞑想は、心を何かの対象に集中させ、精神的な向上を目指すサマタ瞑想と、特定の瞑想対象を選ばずに、ありのままに物事を観察し、物事を客観的、理性的に判断することで気づきを深めるヴィパッサナー瞑想に大別されます。仏陀はヴィパッサナー瞑想で悟りを開いたと言われています。
実は、マインドフルネスとはパーリ語の「サティ」の英訳です。わが国では「気づき」と訳されていましたが、アメリカでヴィパッサナー瞑想に禅瞑想などのエッセンスが混じりあい、宗教色を取り除いた心のトレーニング法として脚光を浴びることになります。不安やうつの治療法にも応用されています。
実際のトレーニング法には、いろいろなエクササイズがあります。詳しくは成書を参照していただきたいのですが、呼吸のマインドフルネスを紹介しましょう。まず、座位か仰臥位で閉眼し、身体の力を抜き、自然に生じる呼吸に意識を向けます。呼吸をコントロールしようとする必要はありません。自然にまかせる態度を取りましょう。今この瞬間を意識しながら、鼻から自然に息を吸ったり吐いたりする時の、身体の感覚、おなかのふくらみやちぢみを観察しましょう。もし雑念が浮かんで心がさまよっても、そのことに気づき、やさしく注意を呼吸に戻しましょう。過去や将来のことに心を奪われるのではなく、今まさに起こっている体験に注意を向けましょう。毎日5分間でかまいませんので、練習してみてください。
何かとストレスの多い現代社会ですが、毎日の生活の中に、五感を通じてやってくる事柄を、マインドフルに観察する時間を作ってみてはいかがでしょうか。今、何が見えますか? 何が聞こえますか? どんな感触ですか? どんな香りですか? どんな味ですか? 考えに執着せずに、今この瞬間に気づき、現実をあるがままに受け入る、マインドフルネスな生き方をしてみませんか。
坂井 誠(さかい まこと) 中京大学 心理学部教授
認知行動療法
関西大学大学院文学研究科修士課程修了
博士(医学)
1955年生まれ