要求と資源のバランス
バーンアウトを防ぐには?
松本 友一郎 心理学部講師
松本 友一郎講師 |
毎年、周りの社会人にインタビューをするという課題を授業で出している。テーマは毎年変えているのであるが、人によって実に様々な思いを抱えて働いていることがよくわかる。仕事に疲れ切っている人もいれば、いきいきと働いている人もいる。就職した当初から幻滅してモチベーションが下がっている人もいれば、長年働く中で徐々にやりがいを見出して希望に満ちている人もいる。
職務において疲れ切ってモチベーションも下がっているような状態を心理学ではバーンアウトと呼んでいる。日本語では燃え尽き症候群と訳されることもある。ただし、スポーツ等の場面では、何かを達成した後にくる空虚な感じを指すこともあるが、これは心理学における定義および用法とは大きく異なる。心理学では、むしろそのような達成などとは無縁であるが故に先述のような状態に陥ることを指す。日々の仕事がハードでゴールも何もないという状況であり、たとえ就職した当初はやる気と活力にあふれていてもバーンアウトに陥ることはありうる。
このバーンアウト、精神的健康という問題にとどまらず、仕事の質の低下を招くということが指摘されている。また、不注意やうっかり忘れといった失敗と関連することを示すデータもある。これでは、本人はますます辛くなり、周囲にも迷惑をかけてしまう。また、ボタン1つで大きな機械や乗り物が動いたり、一瞬で世界中に情報が発信されたりする現代社会において、人間の小さな失敗も社会全体に影響を及ぼしかねない。これは最近の重大事故のニュースを見ればご理解いただけると思う。安全管理という観点からいえば、「人為的なミスであり、技術的には問題ない」というようなコメントを事故後に出す組織は要注意である。
さて、バーンアウトに陥りやすいかどうかが変わるポイントは何であろうか?これまでの研究でもっとも明確に示されているのは仕事による要求と資源である。仕事による要求とは仕事の量や難しさ等である。たとえば、こなしきれない仕事量、差し迫る納期、面倒な顧客、理不尽な上司、勝手放題な部下・・・といった具合である。また、ここでの資源とは、要求に負けないための資源という意味である。こちらは、要求に関する能力、裁量権、設備、システム、周囲の理解やサポート、組織の文化・・・といった具合である。つまり、資源を過度に上回る要求がバーンアウトの最大の要因であるということである。ただし、資源に対して要求が過度に小さい場合、覚醒水準が下がる(退屈で眠くなる等)という状態になる。また、場合によっては自尊心を傷つけモチベーションを下げることもあるかもしれない。いずれにしても、仕事の量や難しさだけを調整してもバーンアウトは防げないということである。個人として資源を獲得すること、組織として資源を提供することと組み合わせて考える必要がある。
【略 歴】
松本 友一郎(まつもと ともいちろう) 中京大学 心理学部講師
組織心理学・社会心理学
大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程退学
博士(人間科学)
1977年生まれ