過程の見える物作りへ
作り手と使い手のコラボを
宮田 義郎 工学部教授

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宮田 義郎教授

 130人が亡くなったパリのテロや、年間数万人が死亡している紛争の背景には、毎年数百万人が飢餓により亡くなっている世界的な貧困と食料危機があると言われる。そのような世界の中で、日本の家庭や外食産業などからは数千万人分の食料が廃棄されている。資源の多くを海外に依存している私達の消費行動は、海外の人たちや環境に様々な影響を与えているにもかかわらず、それを意識することは難しい。

 ほんの数十年前までは日本人の食やエネルギーなどの生産過程は、ほぼ見える範囲にあった。しかしエアコンや電子レンジなどの便利な道具を使うようになって、生産過程が見えなくなり、産地の労働環境や自然環境への配慮が困難となった。例えばパソコンやスマホの生産では、レアメタルの産地での紛争との関連や、生産過程での健康被害、廃棄物による環境汚染など多くの問題が指摘されている。20世紀の物作りが目指した「便利で快適な生活」は、裏返せば「生産過程を気にしなくてもよい生活」ということだったのではないだろう

 当研究室では現在海外30カ国以上のパートナーと連携して作品を作るワールドミュージアム、地域の大学、企業、施設等と連携し、子供達に物作りの楽しさを体験してもらう愛知ワークショップギャザリングなどのプロジェクトを展開している。物作りの過程を見えるようにすると、子供達も好奇心を持ち、挑戦したくなるようだ。学生も海外とコラボレーションしながら物作りを学び、その仕組みを地域の人たちに真剣に説明したり、 ワークショップで子供達に物作りの楽しさを伝えたり、実に活き活きと活動している。学生達の物作りへの意欲は、誰かが喜んだり評価してくれるという、他者との関係に支えられている。作る人への敬意や感謝、自分も貢献したいという感情にもつながる。

 人類の歴史始まって以来、人は必要な物を自ら創造しコミュニティーを作ってきた。その過程で、好奇心、挑戦心、感謝、貢献心などの感情が百万年以上かけて進化したと考えられる。これらの感情が正常に機能する為には、便利だが作る過程が見えない製品を大量生産、大量消費する物作りから、過程の見える物作り、必要な物を自らデザインし創造する物作りへの転換が必要だろう。作る人と使う人の関係も変化してきている。現在インターネットでは、技術者が構築した環境でユーザー同士がコンテンツを創造している。物作りも、使う人がデザインし、3Dプリンターなどで作って小型コンピュータを組み込みプログラムすることも可能となってきている。ワールドミュージアムでは、世界20カ国以上の子供と大人が、世界の一流ミュージシャンとコラボレーションして平和の歌を作り、それぞれの言葉で歌って合唱し、名古屋、アムステルダム、バンコク、ボストンなどで演奏、世界に配信するなど、世界の人たちと専門家がコラボレーションしてグローバルな視野で創造する試みが始まっている。

 

【略 歴】

宮田 義郎(みやた よしろう) 中京大学 工学部教授

コラボレーション工学
カリフォルニア大学サンディエゴ校大学院博士課程修了
心理学PhD.
1953年生まれ

2016/01/26

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