JISのISO化の流れ
三次元表面性状の規格化へ
沼田 宗敏 工学部教授

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沼田 宗敏教授

 近年のグローバル化の流れの中で、日本の国家規格であるJIS(日本工業規格)と国際規格ISOとの整合性が図られてきている。機械計測、特に表面性状の分野では、JISはISOに準拠した段階を経て、今ではほぼ翻訳版となりつつある。たとえば、1947年にJISの前身であるJES(日本規格)の機械0601で制定された断面の「表面粗さ」に関する規格は、1952年にJISB0601として採用されたが、1994年にはISOの影響を受けて「表面粗さ―定義および表示―」へ大幅に改訂された。さらに2001年には、ISO4287の翻訳版「製品の幾何特性仕様(GPS)―表面性状:輪郭曲線方式―用語、定義及び表面性状パラメータ」がJISB0601として再規定された。表面形状から得られた計測データにローパスフィルタを適用し、その出力を計測データから減算することで粗さ曲線が得られる。この曲線の最大山高さなどが表面性状パラメータとして定められた。

 このようなJISのISO化は技術のボーダレス化が進む中で避けて通れない流れである。しかし、時には弊害が発生する。2001年にJISB0601と同じタイミングで規格化されたJISB0632「製品の幾何特性仕様(GPS)―表面性状:輪郭曲線方式―位相補償フィルタの特性」はISO11562の翻訳版である。これは表面粗さ算出の基本となるローパスフィルタに関し1996年に定めた国際規格であったが、その後廃止され、2011年にISO16610-21「製品の幾何特性仕様(GPS)―フィルタ演算:線形フィルタ―ガウシアンフィルタ」へ置き換えられた。このような事態を受け、JISB0632の改訂が急務となっている。

 それでは、表面性状に関する国際規格ISOはどこへ向かおうとしているのだろうか。それは広がりのある面領域の幾何特性、三次元表面粗さである。2010年に「三次元表面性状」がISO251786-6で制定されて以来、関連する規格が順次採用されている。日本では上記ISOの翻訳版が2014年にJISB0681-6として制定された。しかし、これまで半世紀以上の歴史をもつ断面の表面性状規格に比べ、三次元表面性状の規格化はまだ始まったばかりでISO化は困難を極めている。ISOの専門委員会(TC)のワーキンググループ(WG)で数年間検討されてきた国際規格原案DISが、投票で否決されることもしばしばである。一度規格がISO化されると少なくとも十年、あるいは数十年にわたって世界中の計測機器、それを用いる品質管理や産業機械にも甚大な影響を与えるため、各国ともDISの承認には慎重になるためであろう。

 さて、当研究室では上述の三次元表面性状ISO化の流れを踏まえ、ロバストな表面粗さ用ローパスフィルタの研究に取り組んでいる。表面形状から得られた計測データには異常値が含まれ、ISO16610-21のガウシアンフィルタでは粗さ曲線が異常値の影響を受ける。これを防ぐためのロバストフィルタは、異常値のない場合の粗さ曲線がガウシアンフィルタを使った場合と一致するという特性をもつ。三次元表面性状用フィルタとして、本年度より計測現場へ導入され始めている。

 

【略 歴】

沼田 宗敏(ぬまだ むねとし) 中京大学 工学部 教授

機械計測工学
富山県立大学大学院工学研究科博士後期課程機械システム工学専攻修了
博士(工学)
1958年生まれ。

2015/12/17

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