人工知能とユーザインタラクション
シンギュラリティに向かって
濱川 礼 工学部教授

 hハマカワレイ.jpg
濱川 礼教授

 1956 年に開催された、いわゆるダートマス会議を発端に人工知能の本格的な研究が始まった。以降、幾度となく浮沈を繰り返しながら、今また「人工知能」とう言葉が脚光を浴びている。飛躍的に進化したCPU 性能、劇的に向上した消費電力に支えられたソフトウェアの進展は目覚ましい。クイズ、ゲームのような分野ではトップレベルの人間を凌駕し始めている。

 日本では「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトがあり、今年(2015 年) ベネッセの模試を受けた結果、偏差値は57.8、国公立の33 大学、39学部、64 学科で合格可能性80%以上になってきている。2021 年に東大入試で合格点を取るというのが目標であるが遠い未来と言う感覚は既にない。

 技術的には今までの蓄積による技術者たちの創意工夫の成果であるが、多層構造のニューラルネットワーク「深層学習(ディープ・ラーニング)」がその精度の高さで近年注目され、画像処理を初め色々な分野で応用されている。大学時代にニューラルネットワークで卒業研究をしていた私には感慨深くもある。

 一方、ユーザインタラクションとしては、コンピュータによって作成されたグラフィカルなあたかも現実のような世界をヘッドマウントディスプレイなどを利用してユーザに提示するバーチャル・リアリティ(VR)はオキュラスのような比較的安価な装置で様々な実験が簡単にできるようになった。また、周囲を取り巻く現実環境にコンピュータによる様々な情報を付加し人間から見た現実世界を拡張するオーギュメンテッド・リアリティ(AR) はグーグルによる拡張現実ツール「グーグル・グラス」がその代表例であり、今後の発展が期待されている。

 テッククランチの2015 年4 月の記事によれば両方合わせて2020 年には1500 億ドルの市場規模になると予測されている。更には人間の能力自体をコンピュータで拡張するオーギュメンテッドヒューマン(AH)の研究も既に6 回国際会議が開催されている。

 人工知能等を活用することで、人間はインタラクションを格別意識せず、より自然に振舞える。銀行はコールセンターに人工知能を導入し始めている。更に、今までは不可能だったようなことが可能になるかもしれない。例えば、自分の行動を、もう一人の客観的な自分・第三者視点から見て、リアルタイムで行動にフィードバックする「視点の拡張」のような研究も行われている。近い将来、人間とコンピュータが対峙するのでは無く、人間もコンピュータ(人工知能)が同列でその上で互いに協力しあうネットワークが構築されていくかもしれない。

 しかし、一方でこのような環境変化を意識することも重要で、そうでなければ時代に取り残されていく。使う側からすれば便利であるが、作る側・提供する側からは既存の社会では人間が行っている作業範囲が削られるからだ。2045 年には人工知能が人間を凌駕するのではと、いわゆる「シンギュラリティ」も近年、話題になっている。30 年後どのような世界が来るか分からない。しかし、現在の単純延長では無いであろう。

 それはやはり特異点…アリとキリギリスが反転している世界かもしれない。

 

【略 歴】

濱川 礼(はまかわ れい) 中京大学 工学部 教授

知的情報工学
東京大学工学部
1957年生まれ

2015/12/09

  • 記事を共有