インバウンド拡大に思うこと
昔からの顧客も大切に
高橋 秀雄 総合政策学部教授

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高橋 秀雄教授

 近年、官民一体となって訪日旅行促進策が強力に展開され、日本を訪れる外国人旅行者が年間一千数百万人を突破し急速に増加を続けている。訪日外国人旅行者の誘致政策は、日本国内でのサービス財や物財の購買高の増加につながるので、日本経済にプラスの効果をもたらす。それゆえ、今後、次第に人口が減少する我が国においては、是非とも展開すべき政策である。この増加する訪日外国人旅行者への対応のためには、その受け入れ体制のさらなる整備が必要になる。例えば、ホテルなどの宿泊施設の新設や規模拡張、受け入れ側のサービス企業等での体制整備や従業員教育の実施等である。

 このような受け入れ体制の整備だけでなく、リピーターの確保のため、日本各地での観光資源の開発や掘り起こし、観光施設のリニューアル等を継続的に行うことにより、日本全体としての観光魅力度の維持・向上を図ることも必要である。現在のところ、訪日外国人旅行者は増加傾向にあるが、日本の観光魅力度を高める努力や海外への情報発信を継続的に行うことを怠れば、やがては減少に転ずることもあり得る。海外からの旅行者に飽きられないようにするための不断の努力が必要なのであり、集客力を維持していくのは実に大変なことなのである。

 訪日外国人旅行者の集客に関して、さらに困難な問題は、為替相場の変動と諸外国の景気動向の変化による影響である。訪日外国人旅行者(観光客)は当然のことながら、自分のお金で旅行をするので、旅費、食事代、買い物代等の金銭支出には非常に敏感である。現在は、円安なので、訪日外国人旅行者には好条件となっているが、こうした状況が永続する保証はない。訪日外国人旅行者の母国の景気動向が好況であれば、個人の可処分所得が増加するので、訪日旅行に対する追い風となるが、不況になれば訪日外国人旅行者は減少するかもしれない。訪日外国人旅行者の大多数が、日本に地理的に近い東アジア地域からやってきており、地域があまり分散していないことにも注目すべきである。

 訪日外国人旅行者の増加は歓迎すべきであるが、これらの困難な点があるので、状況が変化すると訪日外国人旅行者が減少し、せっかくサービス企業等がサービス提供能力を拡張して受け入れ体制を整えても、その施設や設備の稼働率が低下してしまう可能性がある。こうしたことに備えるために、訪日外国人旅行者を迎え入れる努力をするだけでなく、昔からの国内の旅行者をも大切にし、そのニーズに応えるサービス提供や新サービスの開発をする努力をも怠ってはいけない。まず、しっかりと足元を固めることが必要である。昔からの顧客も大切なのである。インバウンドばかりが注目を集めているが、それだけでなく昔からの国内の旅行者に目を向けることも大切である。

 

【略 歴】

高橋 秀雄(たかはし ひでお) 中京大学 総合政策学部 教授

マーケティング論、流通論
京都大学大学院経済学研究科修士課程修了
1956年生まれ

2015/11/23

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