変わる障害者雇用法制
差別禁止と合理的配慮求める
柴田 洋二郎 法学部准教授
|
柴田 洋二郎准教授 |
雇用社会における「差別禁止」の領域が急速な広がりをみせているなかで,現在最も注目されているのが「障害者」に対する雇用差別の禁止である。このことを定める改正障害者雇用促進法は2016年4月に施行される。今のうちにポイントを抑えておくことが肝要であろう。
従前,障害者雇用は障害者雇用促進法の雇用率制度を中心に促進されてきた。これは,事業主に法定雇用率(現在は民間企業で2.0%)以上の障害者を雇用することを義務づけ,法定雇用率を達成できない事業主からは障害者雇用納付金を徴収する制度である(未達成1人につき月5万円。2015年4月から,常用労働者101人以上の企業にまで徴収対象が拡大されている)。
改正法は,新たにすべての事業主に,①障害者差別の禁止と,②合理的配慮の提供を義務付けた。つまり,①募集・採用の局面で障害者に非障害者と均等な機会を与え,採用後は賃金の決定,教育訓練の実施,福利厚生施設の利用その他の待遇について差別的取扱いをしてはならない。さらに,②障害者に非障害者と均等な待遇を確保したり,障害者の能力を有効に発揮するのに支障となっている事情を改善するため,合理的配慮を講じなければならない。合理的配慮には,建物や設備の調整(車いす利用者にスロープやエレベーターを設置する等),装備・用具の調達(視覚障害者に点字で情報を提供する等),人的サポート(移動補助員や手話通訳者を用意する等)といったことがある(ただし,事業主に「過重な負担」を及ぼす場合には,合理的配慮の提供義務を免れる。過重な負担にあたるか否かは,①事業活動への影響の程度,②実現困難度,③費用・負担の程度,④企業の規模,⑤企業の財務状況,⑥公的支援の有無を総合的に勘案して個別に判断する)。一見障害者を優遇することを義務付けたようにみえるが,そうではない。非障害者を基準に構築された仕組みから障害者が不利益を被っている実態に鑑み,障害者のみを対象とする措置を講じてこの実態を改善するという意味で,障害者と非障害者の平等を実現しようとするものである。他方で,雇用率制度は今後も残るだけでなく,2018年4月以降は精神障害者も算定基礎の基準に加える(これまでは身体障害者と知的障害者のみ)こととされ,これに伴い法定雇用率の引き上げが予定されている。
従前の雇用率制度は障害者雇用の「量的」改善を図るものであり,障害者を「保護の客体」とみて特別扱いすることを求めるものだった。これに対し,改正法の定める差別禁止により障害者雇用政策には,障害者雇用の「質的」改善という視点と,障害者を「権利の主体」ととらえて等しく扱うことを求めるという視点の2つの新たな視点が持ち込まれた。改正法の施行は,雇用率制度と差別禁止という異なるアプローチを併存・融合させることを意味し,これによりわが国の障害者雇用政策は新たな段階に入ることになる。
【略 歴】
柴田 洋二郎(しばた ようじろう) 中京大学 法学部 准教授
労働法・社会保障法
東北大学大学院法学研究科博士後期課程修了・博士(法学)
1978年生まれ