リードタイム短縮で競争力強化
在庫と情報の回転を意識
渡辺 丈洋 ビジネス・イノベーション研究科教授

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   渡辺 丈洋教授

 製品やサービスは、色々な工程を経て完成する。その際、工程と工程の間に、在庫や情報が停滞していないだろうか。

 世界中の企業は、お客様へのQCD(品質・原価・納期)向上で勝ち残るべく戦っている。リーンな経営と言われて久しいが、企業内部の納期(停滞)の意識は、品質や原価の意識に比べ、残念ながらまだまだ弱い。現場に立つと、必死で品質不良問題や原価低減に取り組んでいるすぐその横に、明らかに今要らないものが、たくさん在庫として寝ている。中には埃を被って、本当にまだ使えるのだろうか疑問に思う在庫もある。目に見える在庫だけではない。お客様からのオーダーや見積もり依頼の情報が必要な部署に即時に届かず、アクションに結びついていない例も多くの場面で目にする。皆さんも消費者として、情報伝達の遅さにイライラさせられた経験があると思う。企業内部の停滞、すなわちリードタイムは、まだまだ改善の余地が大きい。

 製造業の場合、在庫は付加価値の塊、キャッシュそのものなのに、劣化や陳腐化のリスクも背負っている。「何でこの在庫があるのだ?」と問い、在庫を減らし回転を上げることが重要である。筆者がトヨタ自動車勤務時代に関わった会社では、基本に忠実に、必要なものだけを小ロットで作れるように、部品や冶具の段取り替えを簡単にし、流れ生産のレイアウトにし、更には作業のバラつきを改善して仕掛り在庫をひとつずつ減らすなど、経営者・管理監督者・作業者の現地現物での問いかけと知恵出しを続け、在庫を貯める貸し倉庫を不要にし、連綿と変化し続けるお客様のニーズにお応えし続けている。毎月数百万円の倉庫代と、莫大な在庫のキャッシュフローも浮いた。このような可能性は、あらゆる現場にあると言っても過言ではない。

 また、筆者自身の経験でも、部署を異動した直後、ある会議に出席し、結論を持ったまま次の会議に飛び込み、帰って来てようやく前の会議の結論を伝えていたため、担当者達の検討時間が短くなっていたことがあった。情報の停滞である。携帯メールもない時代であった。経緯と結論と考慮事項をメモし、次の会議に行く前に手渡した結果、情報の鮮度と加工の回転が上がった。情報技術が発達した現在でも、企業のあらゆる所に同様の停滞があり、情報の質や回転を落としている。社内の情報リードタイムが長いと、変化変動に追従できない結果を招く。

 円安による輸入原料の高騰などの価格転嫁は難しい。また、刻々と変化し続ける外部環境の予測も困難である。しかし、社内運営の見直しはどの経営者にもできる。経営者自らが現場に立ち、リードタイムの観点から在庫と情報の停滞を問い、それらを極限まで減らして力強いオペレーションを作り出すことで、機会損失や不良在庫のリスクが低減し、原価・キャッシュフローも改善する。こうした改善活動を通じ、人材が育ち、企業体質が強化され、変化に対応できる企業競争力が生まれる。

 

【略 歴】

渡辺 丈洋(わたなべ たけひろ) 中京大学 ビジネス・イノベーション研究科 教授

トヨタ生産方式
東京大学法学部卒業・UCLA経営大学院修了(MBA)
1957年生まれ

2015/07/07

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