進む小売業のオムニチャネル化
商品や店舗の魅力向上がカギ
中村 雅章 ビジネス・イノベーション研究科教授
中村 雅章教授 |
小売業のオムニチャネル化が本格化してきた。オムニチャネルとは、すべての(オムニ)販売経路(チャネル)、つまり実店舗、ネット通販、カタログ、電話などをシームレスに使って顧客と接点を持つことを指す。顧客は商品をネットで購入できるのはもちろん、ネットで注文した商品を実店舗で受け取ったり、店頭にない商品はネットにあればその場で注文できたりする。快適な買い物体験を提供し、販売機会を最大化することが目的だ。
オムニチャネルが注目される背景には、アマゾン、楽天を始めとするネット専業企業の躍進がある。特に2000年の日本進出以来、急激に売上を伸ばすアマゾンは最大の脅威である。小売各社は対抗手段として次々とネットショップを開店して迎え撃つことになった。小売り販売額はここ数年135兆円前後で横ばいが続く中、ネット通販の市場は急成長しており、2018年には現在の約2倍の20兆円規模になるといわれている。これは小売業がこぞってネットへの対応を強化した証拠ともいえる。しかし、実店舗は強みの現物確認や接客機能に加え、いつでもどこでも注文できるネットの利便性を併せ持つことで、その相乗効果はむしろネット専業を凌駕することが分かった。
ただし、単なるチャネルの複線化、つまり店舗とネットの業務を別々に運営するだけではマルチチャネルにとどまる。オムニチャネルと言えるには、物流網を整備し、商品・在庫情報、顧客情報を一元化することでチャネル間の融合を果たさなければならない。これには相当の投資と労力がかかり、全社的改革を伴うことも多い。
アマゾンでさえオムニチャネルへの対応を進める。ローソンやファミリーマートと提携して商品の受け取りサービスを実施し、ヤマト運輸の全国の集配所では注文当日の受け取りサービスを開始した。当然、国内の小売業にとっては喫緊の課題である。
日本最大級の小売りグループ、セブン&アイ・ホールディングスが社運を賭けて大規模なオムニチャネルに乗り出したのが象徴的だ。傘下のセブン-イレブン、そごう・西武などグループ各社の商品を一括してネットで注文し、全店で受け取り・支払い・返品ができる体制づくりを急ぐ。単に買い物の利便性の追求だけではない。セブンプレミアムの販売を想定した良質な新商品の開発、タブレット端末を大量に配備し、高齢者等、ネットを苦手とする顧客に対する注文代行や商品のお薦め・提案を行うことが含まれている。
オムニチャネルは商品や店舗へのアクセスを容易にする。顧客は買いたいお店への来店頻度は増えるが、そうでないお店への足は遠のくだろう。店舗側にとって重要なことは、自社の資源・強みを使ってどんな顧客満足を提供できるかを考えること。顧客が欲しいと思う商品やサービスが提供できなければ、オムニチャネルへの取り組みはむなしい結果に終わる。オムニチャネルが拡大すればするほど、小売りの原点に立ち返ることが大切になってくる。
【略 歴】
中村 雅章(なかむら まさあき) 中京大学 ビジネス・イノベーション研究科 教授
情報・ビジネス戦略
名古屋工業大学大学院工学研究科博士後期課程修了・博士(工学)
1958年生まれ