フリーターは意識が低い?
証拠にもとづく能力開発を
亀山 俊朗 現代社会学部教授
亀山 俊朗教授 |
フリーターの増加など、若者の雇用が問題になって久しい。長期の景気低迷が主因だが、年長世代からすると若者のやる気や能力が低下しているのでは、という懸念もあるだろう。一方で、最近の若い者はと言いたいところだが、終身雇用や年功序列が揺らいでいるいま、自分たちがしてきたようにがまんしろとも言いにくい、と感じておられる向きも多いかもしれない。
じつは10年あまり前までは、研究者の間でも「フリーターは若者の甘え」という考えは根強かった。1990年代末には大企業の破綻や経営危機が相次ぎ、中高年のリストラが大きな社会問題になっていた。それに対して若者は、職はあるのにえり好みをしている、という見方が大勢だった。文部科学省などはフリーター対策として勤労観の醸成をうたうキャリア教育をすすめようとしていた。
もしフリーターが若者の意欲の低下によるものだとしたら、フリーターと正社員には意識の差がみられるはずである。そうでなければ勤労意欲の育成は、フリーター対策としては見当はずれになってしまう。そう考えて筆者は、2000年代前半からフリーターの実態調査に加わった。その調査では職業観に関する質問項目がいくつかあったが、いずれにおいてもフリーターと正社員の間で結果に大きな違いはみられなかった。
フリーターの多くは望んでその道を選んだわけではない。デフレ不況が続き企業は正社員の採用を絞る。日本企業は中途採用者の中でもフリーター歴のあるものの採用には消極的だ。新卒時に正社員になる門は狭まり、再挑戦もままならない。一人一人には根性論が有効なこともあるだろうが、政策的には職業意識の向上という効果がはっきりしない施策よりも、適切な経済成長や日本型雇用の見直し、社会保障改革などが優先されることは言うまでもないだろう。
とはいえもちろん、キャリア教育や職業教育が不要なわけではない。高度成長期以降の日本では、正社員として採用した若者を各企業が社内で教育するのが標準的になった。そのため非正規雇用になると、現在の所得が低くなるだけでなく、将来に向け能力を伸ばす機会も失われてしまう。非正規雇用が増加しているからこそ、今後公共機関などでの職業教育が重要になる。
多くの産業諸国では企業外の公的な職業訓練の機会が日本よりはあるが、それでも若者の能力開発をどう保障するかを真剣に議論している。日本では問題はより深刻なはずなのだが、いまだに勤労観の醸成といった精神論が、政策審議の場でも幅をきかせている。
最近の若い者は、という居酒屋談義に罪はない。しかしその水準で公的な政策が議論されては、若者は救われない。労働力不足が顕在化するもと、社会的にも彼らの能力育成は喫緊の課題だ。働くものにはどのような能力が必要で、それをどこでどのように育成していくのか。公的な政策検討の場で、また企業や学校でも、実証に基づいた議論と実践が求められている。
【略 歴】
亀山 俊朗(かめやま としろう) 中京大学 現代社会学部 教授
社会学
大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了・博士(人間科学)
1962年生まれ