企業で働く発達障害の人の支援
具体的で丁寧な指示が大切
辻井 正次 現代社会学部教授

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辻井 正次教授

 「発達障害」と聞くと、多くの人は自分とは関係のない話だと思いがちである。しかし、実際、多くの企業人は2つの側面で、発達障害の人たちと関わりあいをもつ。近年、障害者雇用を行い、国が定めた障害者雇用率(2%)を達成することは当然であるというコンセンサスが社会的に成立している。また、障害者差別解消法の施行が2016年4月に近づき、障害ある人たちをいかに雇用し、活躍してもらうのかということを考えなくてはならない現状にある。昨年、国の障害者政策委員会の委員を拝命し、いろいろな企業が参加する関係団体のヒアリングに参加する機会を得た。そこで、企業の持つ「障害者」というイメージはまだまだ身体障害の人たちが中心で、知的障害や精神障害、なかでも、現在は精神障害に含まれている発達障害の人のイメージがないことを再認識した。しかし、実際、発達障害の雇用の場合、本人も周囲も発達障害だということを認識していない場合も少なくなく、気づかれていないだけで、潜在的な発現率は10%近いという推計もあり、考えるべき課題をもっている。

 発達障害とは、発達障害者支援法で定義されており、「社会性の障害」を中核とする、自閉症スペクトラム障害(あるいは自閉スペクトラム症)とされる、自閉症や広汎性発達障害の人たちや、「不注意あるいは注意集中維持の障害」注意欠如多動性障害(ADHD)、(知的な遅れはないのに)「読み書きや計算の著しい障害」等が含まれている。「社会性の障害」というのは、他者の意図が自然に読み取れないことを指し、空気が読めず、こだわって相手に合わせて視点を切り替えることが難しいことを指す。偏差値の高い有名大学出身の方から、知的な遅れを伴う方まで幅はあるが、何度言っても空気が読めないことで、対人関係のトラブルを頻発し、処遇に人事担当者が頭を抱える場合もある。本人も、度重なる叱責で精神的不調に至ることも少なくなく、うつ状態などになり、休職せざるを得ないこともある。

 発達障害は基本的に生来の脳機能のちょっとした非定型の発達から生じている。社会性や注意など部分で、多くの人が自然にできることができないが、周囲はそれを努力が足りないかのように考えて叱責することで問題が深刻化していく。自然にできないことを叱責するのではなく、具体的にどうすればいいのかを教えることで、学んでいくことで適応していく人たちなので、問題を整理し、取り組む仕事内容を整理すれば十分な成果を出せる。従って、障害者雇用においては積極的に雇用するメリットが大きいし、本人や家族も気づかずに発達障害と認識されていない場合でもちょっとの配慮で職場で活躍できる大きな可能性を有している。東海地区では、NPO法人アスペ・エルデの会等がいろいろなプログラムを行っており、成人期からでもいろいろな取り組みが可能である。

 

【略 歴】

辻井 正次(つじい まさつぐ) 中京大学 現代社会学部 教授

社会臨床心理学 
名古屋大学大学院教育学研究科満期退学
1963年生まれ

2015/03/27

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