地域産業振興に向けた連携
自治体等の促進策が重要
川端 勇樹 経営学部准教授
川端 勇樹准教授 |
地方創生が政府の重点政策となった。この実現には地方経済の再生が最優先の課題であり、企業数・雇用者数の大半を占める中小企業が市場創造や活性化、イノベーション、新産業の振興に積極的な役割を担うことが不可欠である。
一方で中小企業は規模が小さく多くが下請けであったことで、市場ニーズの把握、開発コストの負担能力、販売力等で不利な要素を抱えている。これに対し、中小企業が異業種企業、大学や研究機関、経済団体、自治体等との連携により新産業の振興に取り組む動きが出てきている。
この流れの中で振興が期待される産業に医療機器が挙げられる。同産業の世界市場は年率5~8%で成長しており、高齢化、新興国の所得向上等で今後も需要の伸びが見込まれる。我が国の市場規模も2013年で約2.7兆円と安定的に拡大しているが、輸入超過で貿易収支が8,000億円近い赤字となっている。医療機器産業ではニッチ市場も多く、競争力向上に中小企業の果たす役割は大きい。近年では政府の補助金や支援体制も拡充され、薬事法改正や医薬品医療機器総合機構(PMDA)の相談機能の強化・審査の迅速化等により制度的環境も改善されつつある。また、自治体や地域の経済団体による医工連携の支援は全国に広がっている。
このような連携を促すには、中小企業と医療機関等とのネットワーク構築による医療現場のニーズの共有機会の提供、薬事情報へのアクセス、治験、複雑な認可プロセスの処理等、中小企業単独では対応が困難なことへの支援が必要である。ここで医療機関、大学や研究機関、医療機器製販企業等との連携促進のための仕組み作り、公的予算の獲得、専門的支援等において地域自治体や経済団体等が果たす役割は大きい。その実現には多くの困難が伴うが、いくつかの地域では自治体等の主導で同産業振興に向けた中小企業等による連携促進に成功している。
筆者は先進的な地域の調査研究を通して、成功に向けた以下の示唆を得ている。
まず産業振興を志向する自治体等が地域の状況を把握し、人のネットワークも含め医療機器の開発・事業化に必要な資源の有無や活用の可能性を明確にすること。
これを踏まえ、連携に必要な人々の相互作用を促進させるための協働コミュニティである場作りや関係性構築のための介入を行うこと。場作りでは、関係者の招集と総意の集約、連携ドメインの明確化と事業化への徹底、情報提供と共有、展示会等による機会の創出、活動の対外的アピール等を通し、内外の関係者の結節点として連携を促進させる仕組みを創出することが重要である。介入では、場作りやその発展に加え、企業・医療関係者等を対象に、医療現場のニーズおよび企業のシーズの共有機会の提供、域外関係者や医療機器メーカーへの情報発信やマッチング支援等を通して連携促進を図ることが必要である。
最後に、連携の拡大・変容に伴い新たな介入者が輩出されるが、従来の介入者との間で連携ドメインを共有して協力し合うことが持続的な産業振興に不可欠な要素である。
【略 歴】
川端 勇樹(かわばたゆうき) 中京大学 経営学部 准教授
組織間関係論
東京工業大学大学院博士後期課程(博士)
1973年生まれ