再エネ推進政策の岐路
持続可能な制度作りが必要
平澤 誠 経済学部准教授
平澤 誠准教授 |
今年12月にパリで開催予定の第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)では、2020年以降の世界の温暖化対策について京都議定書に代わる新しい枠組みの大枠が合意される予定である。いま日本では、COP21に向けて将来の発電方法をどのように組み合わせるのがよいのかについて、盛んに議論がおこなわれている。発電の方法には、火力、原子力の他に、水力、地熱、バイオマス、廃棄物、風力、太陽光、波力といった再生可能エネルギー(以下、再エネ)を利用する方法がある。米国エネルギー情報局のデータを用いて計算すると、京都議定書が採択された1997年の日本の電源構成は火力が6割弱、原子力が3割、水力が1割弱で、水力以外の再エネはわずかであった。東日本大震災後の2012年では、原子力がほとんどなくなり、火力の比率が高まって約85%、水力はほとんど変わらず1割弱である。水力以外の再エネについては、1997年に2%であったのが、2012年には5%に微増している。しかし、他のOECD諸国と比べて日本の再エネの普及はまだあまり進んでいない。
そのような状況を背景に、再エネによる発電の促進を目指して2012年7月に再エネの「固定価格買取制度(FIT)」が導入された。FITは再エネを用いて発電された電気を、国が定める調達価格で一定の期間電気事業者に調達を義務づける制度のことである。我々が支払う電気料金には、電力会社が再エネによって発電された電気を買い取るための費用に充てられる「賦課金」が含まれている。現在、月使用量300 kWhの標準家庭の場合、1か月あたり225円、年間で2,700円の賦課金を負担している。しかし、この買い取り費用が増加していけば、賦課金が上昇して、消費者の負担も増加することになる。またいま、この再エネ促進制度への信頼が揺らぎ始めている。太陽光発電の買取価格が他の電源に比べて高く設定されているため参入者が増大し、その結果、昨年9月の九州電力に始まり、他の電力会社も次々と再エネによる電力の新規受け入れの回答を保留すると発表した。2月24日、経済産業省の調達価格等算定委員会は、今年度の買い取り価格案をまとめたが、太陽光発電からの買取価格は企業向けで5円、家庭向けで2~4円、それぞれ引き下げられることになりそうである。しかしなお太陽光の買取価格は他の電源に比べて高くなっている。
温室効果ガス削減のためにも、また他国の再エネ技術に遅れをとり成長のチャンスを逃さないためにも、再エネ技術の推進は必要と思われる。しかし、その促進を目指すFITは制度設計を見直す時期にきている。困難ばかりが目につくが、政府が明確に再エネ導入の方向性を示し、投資をするものが将来の収支を見通せるようにする、また何らかの形で調達価格と当該電源の導入量をリンクさせ、市場原理を持ち込むことで賦課金の上昇を食い止める、さらには、電気の需給バランスの調節に有効な送電線網の整備・普及も視野に入れた制度の見直しが必要と思われる。
【略 歴】
平澤 誠(ひらざわ まこと) 中京大学 経済学部 准教授
環境経済学・公共経済学
中京大学大学院経済学研究科博士課程
1971年生まれ