経済上重要なファミリービジネス
変革こそが成功の決め手
矢部 謙介 経営学部准教授

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矢部 謙介准教授

 日本には、業歴100年を超える老舗企業が2万社以上あり、世界的に見ても日本はファミリービジネス(いわゆる同族企業)大国であると言われている。ここでは、創業家が経営に関与し、また株主でもある企業をファミリービジネスと呼ぶことにしよう。

 日本のファミリービジネスに関する正確な統計は存在しない。しかし、中小企業のほとんどはファミリービジネスであるため、日本における中小企業数が全体の99.7%を占めることなどから、ファミリービジネスの日本経済における重要性は極めて高いと推測できる。ファミリービジネスと取引のある金融機関や企業まで含めると、ほとんどの企業がファミリービジネスと何らかの関わりを持っていると言っても過言ではない。

 しかし、日本におけるファミリービジネスに対するイメージは必ずしも芳しいものではない。一族支配の構造が不祥事の温床となっているという見方もあり、ファミリービジネスにはネガティブなイメージがつきまとう。しかし海外では、ファミリービジネスの業績優位性を報告する研究が多く見られ、ファミリービジネスは収益性が高いとも言われている。筆者の財務分析でも、日本の上場ファミリービジネスは高い安全性を有していることが明らかになっている。また、「ブルーレット」や「アイボン」といった製品を生み出した小林製薬など、ユニークな新市場創造型の企業にはファミリービジネスが多い。オーナー経営者のこだわりが活かせるファミリービジネスだからこそ、こうした企業が育ったのではないだろうか。

 拙著『成功しているファミリービジネスでは何をどう変えているのか?』(同文舘出版)で詳しく述べているが、多くのオーナー経営者が、自社の経営において永続性こそが最も重要だと語っている。しかし筆者が見るところ、経営者が語る永続性という言葉には、ふたつの別の意味が混在している。ひとつ目は「自社が変わらず継続する」という文字通りの意味であり、もう一方は「自社とそのビジネスが永続するためには、自らが変わり続けなければならない」という経営者の決意の表れである。筆者は、後者こそが永続性の実現において極めて重要だと考えている。

 例えば、宇津救命丸という会社がある。「夜泣き、かんの虫に宇津救命丸」のフレーズでなじみ深い同社は、関ヶ原の戦いの前の創業であり、400年以上も続く超長寿企業なのだが、実は30年ごとに経営危機が訪れているのだという。同社はこうした危機を、大胆な経営改革やイノベーションで乗り越えてきた。最近では、既存製品である宇津救命丸以外に、「宇津子どもかぜ薬A」といった同社の新しいシリーズの医薬品もドラッグストアで目にするが、こうしたラインナップも絶えざる変革によって拡充されてきたものである。

 ファミリービジネスの栄枯盛衰は変革によって決まる。どのような変革を志向し、実行するのか。その目利きこそがファミリービジネスを成功させ、永続させるためのカギなのである。


【略 歴】

矢部 謙介(やべ けんすけ) 中京大学 経営学部 准教授

経営財務、M&A、ファミリービジネスの経営
一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了・博士(商学)
1972年生まれ

2015/01/29

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