情報をうまく使える社会に
ネット選挙と開かれた政府
吉野 裕介 経済学部講師

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吉野 裕介講師

 東日本大震災以降、人びとの関心のひとつは、政府が持つ情報が、本当に詳らかにされているかにあった。一方で、近年のSNSの(過度な)発達や、ヘイトスピーチの問題に目をやる時、インターネットというツールが、適切に活用されていると言えるだろうか。果たして、現代社会における「情報」を、われわれはどう考えればよいのか。

 先ごろ行われた衆院選の一番の争点は、安倍首相が進めてきた経済政策「アベノミクス」が、どれだけ国民の支持を得られるかにあった。しかし、情報社会という観点から見てみると、 2013年の公職選挙法で改正された「ウェブサイト等を用いた選挙運動」、いわゆる「ネット選挙運動」が導入された初めての衆院選だったことは、きわめて重要である。しかし今回の選挙でネット選挙という論点は、あまり耳目を集める話題ではなかったようだ。

 公共政策学者で『ネット選挙--解禁がもたらす日本社会の変容』(東洋経済新報社)などの著者である西田亮介は、ネット選挙運動の解禁を基本的には歓迎しながらも、広告代理店を含めた各政党の持つ発信力の「格差」が拡大・定着するだけだという懸念も示している。西田も指摘しているように、日本においてネットと政治の関係は、議論が始まったばかりである。したがって、多くの人が選挙へのネットの活用と聞いて想像するような電子投票の導入は、まだまだ現実的ではない。

 「オープンガバメント」(開かれた政府)とは、ネットを使った政府の情報公開に関する取り組みのことである。米国のオバマ大統領は、当選当初からこうした方針を掲げ、様々な取り組みが進められてきた。その主な特徴は、以下の三点である。第一に、政府は必要な情報を公開するという意味で「透明」でなくてはならない。第二に、政府は人びとに「参画」を促すような仕組みを設けなくてはならない。第三に、政府は人びとと「協働」し、公共的な仕事に互いに積極的に関わることを目指さなくてはならない。

 震災以降の日本でも、一部でこうした政策を推進しようとする動きはあった。例えば福井県の鯖江市では、公衆トイレやAEDの場所がネットで公開されており、検索可能なスマホアプリも用意されている。このような取り組みは、例えば災害などの緊急時において、行政と市民の協働を容易にするだろう。ところが、これらの取り組みが現在も国レベルでさかんに行われているかと言えば、決してそうは言えない状況である。

 確かに、インターネットはめざましく普及した。ネットは、特に若年層を中心に、政府や政治に関する不信感や無関心を改善するための、有効なツールとなりうる。その一方で、それを社会がどう扱うかは、まだまだ議論の余地がある。今回の衆院選は、そのためのひとつの橋頭堡であったのだ。

【略 歴】

吉野 裕介(よしの ゆうすけ) 中京大学 経済学部 講師

経済思想・アメリカ研究・情報社会論
京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了
1977年生まれ

2014/12/18

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