技術的資源を持たない強みとは
新競争要因を創出して勝負を
山﨑 喜代宏 経営学部准教授
山﨑准教授 |
日本製造企業の多くは、多様な技術を保有し活用することで、競争優位を構築する傾向が強かった。擦り合わせ型の製品開発を得意とし、技術を効果的に組み替え、全体の最適性を考えて各部品間の調整を行いながら、製品を作り込んでいく。また、技術を磨くことで、製品性能を速いペースで向上させ、新しい機能を付加する。その結果として、競争力の高い製品を開発してきた。しかし、1990年代以降、日本製造業の収益力は低下している。特に電機産業の収益力の低下は著しい。
このような状況を引き起こす要因として、2点が挙げられる。第一に組み合わせ型の製品開発を可能にする製品アーキテクチャのモジュラー化、第二に、技術進歩スピードが速く、製品性能が顧客の認知や利用能力を追い越してしまうオーバーシュート(やり過ぎ)である。すると、製品において中心的な役割を担う技術(基盤技術)を保有する企業が、その技術を磨いても、競争優位を発揮できなくなる可能性が高くなる。
その一方で、基盤デバイスの外販が行われ、それを利用することで、基盤技術を保有しない企業は製品開発が可能になり、なかには高い競争地位を確立する企業が出てくる。これらの一部は、外販されるデバイスを利用し製品開発を行う東アジア諸国の企業である。基盤デバイスを外部から安価で調達をし、低コストの製品を開発する。ただし、日本企業のなかには、低コストというだけではなく、それ以外の要因で差別化をし、高い競争優位を構築した事例がある。
例えば、撮像素子技術や光学系技術を保有しないカシオ計算機は、撮像素子の多画素化や光学ズームの高倍率化が進むなか、高画質な撮影機能は割り切り、「ウェアラブル(身に付けられる)カメラ」というコンセプトを持つ薄型軽量のデジカメ(エクシリム)を開発した。またCPUやGPUといった半導体製造技術を保有しない任天堂は、競合企業がCPU・GPUの高性能化によってゲーム画質の描写性能を向上させているなか、その性能を抑え、「家族の誰もが遊べるゲーム機」というコンセプトを設定し、シンプルなユーザーインターフェイスを持つWiiを開発した。いずれの製品も基盤デバイスの性能を抑え、他方でカシオであれば携帯性を、任天堂であればゲームの身体性や操作の簡易さを追求している。
このように、基盤技術を保有しないからこそ、既存とは異なる競争要因に固執せず、新しい要因を探索できる。競合他社と同じ競争要因で競っても、真の差別化はできない。既存とは異なる競争要因を創出する必要がある。特に中小企業は、環境変化に大きな影響を受ける。そのため、小さな変化にも敏感にならざるを得ず、よって、それを感知することに長けていると考えられる。その気づきが、新たなコンセプトを創り出す源泉となるはずである。他社に比べ、技術力が劣っていたとしても弱みとは考えず、持たないからこその強みを追求することを考えたい。
【略 歴】
山﨑 喜代宏(やまざき きよひろ) 中京大学 経営学部 准教授
経営戦略、技術経営
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了・博士(経営学)
1980年生まれ