ストレスへの上手な対処
職場のメンタルヘルス
坂井 誠 心理学部教授

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坂井教授

 わが国の労働者の多くは、仕事に関するストレスを感じている。うつ病による休職や自殺者はあとを絶たない。2012年の「労働者健康状況調査」(厚生労働省)によれば、仕事や職業生活に関するストレスを感じている労働者の割合は60.9%と報告されている。ストレスを感じる事柄(3つ以内の複数回答)は、「職場の人間関係」(41.3%)が最も多く、「仕事の質」(33.1%)、「仕事の量」(30.3%)と続く。メンタルヘルスケアに取り組む事業所は47.2%に昇り、300 名以上の事業所では9割を超えているものの、メンタルヘルスケアの効果については「ある・あった」とする事業所は36.9%しかない。残念な結果である。

 こうした状況を背景として、本年6月に「労働安全衛生法の一部を改正する法律案」が成立した。従業員50名以上の事業者にストレスチェックの実施が義務付けられた。これまでメンタルヘルスケアは、予防という観点からの対策が求められてきた。一次予防(メンタルヘルス向上を目的とした健康教育)、二次予防(精神疾患の早期発見と危機介入)、そして三次予防(再発防止を目的とした回復期の活動)である。ストレスチェック制度の導入により、予防対策が促進されればよいのだが。

 法案の成果を見守りつつ、一次予防を念頭に置いたストレスへの対処法のいくつかを紹介したい。

①時間の管理をする。今日すべきことを書きだし、作業の優先順位をつける。朝は大事な仕事からとりかかる。

②良質な睡眠をとる。睡眠のリズムをつくる。朝の光をあび、体内時計をリセットする。寝る前1時間は穏やかに過ごす。運動する。

③食を改善する。栄養のバランスを考えながら食べる。食べ過ぎない。しっかりかんで食べる。アルコールにおぼれない。

④気分転換をはかる。行動することで気持ちを切りかえる。できそうなことから少しずつ実行する。小さな楽しみをみつける。                   

⑤考え方を柔軟にする。白か黒か、オール・オア・ナッシングの思考をしない。70%できればよし。ありのままの自分を受け入れる。

⑥リラクッスする。ぬるめのお風呂にゆっくりはいる。自分の好きな穏やかな音楽を聴く。香りを楽しむ。

⑦呼吸法を身につける。ゆっくりとした呼吸で緊張を和らげる。まず、楽な姿勢で閉眼する。おへその少し下に注意を向け、ゆっくりと数を数えながら、腹式呼吸を行う。1・2・3で、お腹を膨らませるように鼻から自然に息を吸う。4で、息を軽く止める。5・6・7・8・9・10で、全身の力を緩めながら、お腹をへこませるように口からゆっくり息を吐く。この練習を5~10回繰り返す。

 ストレスへの上手な対処が求められる時代に私たちは生きている。しかし、ストレスをすべて悪いものであると考える必要はない。ストレス学者セリエは「ストレスは人生のスパイスである」と述べている。上手に付き合うことが肝要である。それでも苦しいときは専門家を訪ねましょう。

 

【略 歴】

坂井 誠(さかい まこと) 中京大学 心理学部 教授

臨床心理学・認知行動療法
関西大学大学院文学研究科修士課程修了。博士(医学)。
1955年生まれ

2014/10/24

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