一流スポーツ選手から学ぶ
健康維持に役立つヒント
湯浅 景元 スポーツ科学部教授

湯浅教授
湯浅教授

 一流スポーツ選手が行っているトレーニングや練習、試合に臨む態度などの中には、私たちの健康維持に役立つヒントが数多く隠されている。それらを白日の下にさらすことが、私の大事な関心事である。読者諸氏に役立つと思われる健康法をいくつか紹介しよう。

 プロスキーヤーで登山家の三浦雄一郎さんは、20キロのリュックを背負い、足首に10キロの重りをつけてウォーキングを重ねている。脚力強化のためであるが、脚の骨に重さをかけることで骨の強化にも役立っている。三浦さんをまねて、まずは計5キロほどのバッグなどを携帯して歩いてみよう。骨粗しょう症予防に役立つ。

 ウサイン・ボルト選手が100メートルを9秒58で走ったとき、1秒間に5回の高速度で脚を回転させていた。体を素早く動かすことができる筋肉(“速筋”という)が発達しているからである。私たちの体にも速筋はあるが、30代以降は体を素早く動かすことが極度に減るので、速筋は一気に衰える。これが転倒の原因となる。転倒を予防するには、ボルト選手のように脚を素早く動かす運動をすればよい。椅子に座り、3~5秒間、できる限り速くステップする。これだけでも、脚の素早さが戻り、転倒を予防できる。

 女子マラソンの高橋尚子さんは、現役中、1日に5時間ぐらい走っていたという。男子選手で1日3時間ほどであるので、彼女の走る時間がいかに長いかが分かる。体脂肪を減らし、心臓や血管を丈夫にしたいとき、高橋さんを見習いたい。とはいっても、ほとんどの人は高橋さんと同じ運動メニューなどこなせないので、まねるのは運動時間を長くすることである。速度をゆっくりにして長い時間(できれば1~2時間)歩いたり走ったりするのである。運動強度を低くして運動時間を長くすると、脂肪の減少は促進され、心臓血管を丈夫にする効果も現れる。

 イチロー選手が日米通産4000本安打を記録できたのは、21年という年数を大きなケガもなく過ごしたからである。スポーツ選手のケガの原因は、プレイだけにあるのではない。日ごろの生活動作も誤るとケガの原因となる。イチロー選手は、プレイ以外の動作にも心配りをしている。たとえば試合中にベンチに座るとき、深く座り背を伸ばしている。この姿勢は、首から腰にかけての負担が軽くなり、腰痛などを防ぐことができる。しかし、ほとんどの選手たちは、浅く座って脚を投げ出したり、背を丸めて前かがみになった姿勢をとっている。この姿勢は腰や首に負担をかけて痛めることがある。

 私たちは、一流選手のようなトレーニングを行ったり、体を操ったりすることはできない。しかし、健康維持に役立つヒントを一流選手から学び、それを実践することはできる。一流選手たちの追っかけがまだまだ続くことになる。

 

【略 歴】

湯浅 景元(ゆあさ かげもと)中京大学 スポーツ科学部 教授

コーチング科学
東京教育大学大学院体育学研究科修士課程修了。
1947年生まれ

2014/08/20

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