画像認識技術の社会応用
健康生活を支援する技術へ
長谷川 純一 工学部教授

長谷川教授
長谷川教授

 画像認識とは、コンピュータを用いて、画像や映像の中から関心のある物体の形状や動きを認識する技術のことである。この技術があれば、人間が目で見て行う種々の作業を支援あるいは代行することができ、作業の効率化はもとより、人間の判断や行動に大きな助けとなる。

 コンピュータが登場して間もない1950年代、早くもその優れた計算能力を画像認識に利用しようという動きが始まり、宇宙開発、工業、医療などの応用分野で一定の成果をあげた。印刷文字認識、工業部品識別、血球分類などはそのよい例である。

 1960年代に入ると、それまでの技術をベースに、3次元世界の複雑な情景(シーン)や人体内部の複雑な構造をコンピュータに理解させようとする試みが始まった。ここへきて問題の困難さは一気に増大し、人々はそれまでの画像認識技術の未熟さを思い知る。それでも、1960年代後半にはコンピュータビジョン、1970代にはロボットビジョンや画像理解など新しい分野が次々に生まれた。その後、画像認識を記憶や学習機能と連動させて実現しようとする研究や、人間の視覚機能に似せた処理方式や計算モデルの開発も活発に行われた。しかし、人間の目と同等の機能をコンピュータに付与するという研究者の夢はいまだ叶えられていない。

 最近の20年を見ると、画像認識応用の中心は社会応用にシフトしてきたと言える。医療、健康、安全、スポーツなど、人間の生活に直結した部分での画像認識応用に関心が集まっている。筆者も、この種の応用研究に40年ほど関わり、医用画像の診断支援システムやスポーツ映像解析システムなどを開発してきた。社会応用の特徴の一つは、対象が人間の生活に直接関わる画像であることから、処理の過程で人間の姿勢や動きを正しく認識しなければならない場面が増えることである。これは画像認識の問題としては最上級に難しい。しかし、社会応用が進めば、その恩恵にあずかる国民の数は飛躍的に増える。画像認識技術が、国民を病気にさせない、不安にさせないための「予防」技術になる。

 そのため、画像認識の社会応用に投入される研究開発費も年々増加している。国や県は、高齢者を中心に国民の福祉や生活支援などを目的とした大型プロジェクトを次々と打ち出し、その中で画像認識技術を重要な応用技術と位置付けるようになった。しかし、そのような健康・福祉応用も医療応用に比べればまだ規模は小さく、娯楽やスポーツ応用に至っては依然貧弱である。これは、病気を治す医療への応用と違い、健康な人々を病気にさせないための、あるいは,生活の質を保つための画像認識技術に対する社会的、経済的評価がまだ一定していないからであろう。

 画像認識技術が、特定の人々の特定の問題に応用するための技術から、国民大多数の日常生活を総合的に支援するための技術になるために、その評価方法を社会的、経済的に見直す時期にきているのではないだろうか。

 

【略 歴】

長谷川 純一(はせがわ じゅんいち)中京大学 工学部メディア工学科 教授

画像処理、パターン認識
名古屋大学大学院工学研究科博士後期課程。工学博士。
1951年生まれ

2014/07/23

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