企業とスポーツの関係
所有から支援への新しい動き
菊池 秀夫 スポーツ科学部教授
菊池教授 |
わが国のスポーツは、企業(実業団)スポーツによって支えられてきた。しかし、その土台は揺らいでいる。名門と言われたチームでさえも休部・廃部が相次いでいるのがその証左だ。本稿では、企業スポーツの動向を追いつつ、企業とスポーツのあり方について考えてみたい。
そもそも企業スポーツとは何か。簡潔に言えば、企業が保有するチームまたは選手を全国大会等に参加させ対外的に競わせる活動のことである。発足当初は従業員間の親睦や娯楽がその目的であった。存在感を増すのは、戦後の高度経済成長期になってから。企業間の対抗戦が組織され、テレビの普及がそれを後押しした。自社チームの活躍は従業員の一体感の醸成や士気向上へと繋がった。またメディアへの露出は企業の認知度向上やイメージアップという広報手段としての価値を不動のものとする。高校や大学から優秀な選手が獲得され、選手にはスポーツに専念する環境が用意されるようになった。こうして企業スポーツが日本のスポーツを牽引する構図が定着していった。1970年代、80年代がその最盛期とされている。
1990年代に入り、その勢いは衰える。長引く不況下で企業業績の悪化を理由に休・廃部が相次いだ。以前にも休・廃部はあったが、他企業へチームが譲渡さるなどして絶対数の大きな減には至らなかった。しかし近年は違う。大きくその数を減らしている。ある調査では、景気が回復してもチームの再開は考えていないとする企業が6割を占めたという。チームを所有する企業メリットが薄れ、反対にコストセンターとしての認識が強いからだ。企業スポーツは正にじり貧にあると言える。
このような状況で注目されるのが、チームの地域クラブ化だ。所有していたチームをクラブとして独立させ、地域全体で支えるという動きである。地域やその地域にある複数の企業でチームを支え合うというのがそれだ。企業にとってはチームを所有する立場から支援する立場への変化で、負担を軽減しながらスポーツとの繋がりを維持することができる。歓迎すべき動きと言えよう。そこでは、スポーツが単なる企業広報の手段としてではなく、地域や広く社会貢献の一環として位置づけられることが必要だ。企業に新しい価値観が求められていると言えよう。そうした取り組みは、最終的には企業イメージの向上や社会との共存に繋がっていくに違いない。
【略 歴】
菊池 秀夫(きくち ひでお)・中京大学スポーツ科学部教授
スポーツ経営学、生涯スポーツ論
ミシガン州立大学大学院博士課程修了。博士(学術)。
1954年生まれ