高齢者の積極的な雇用も視野に
安全に対する参加型教育の必要性
向井 希宏 心理学部教授
向井教授 |
平成25年版交通安全白書によると、平成24年の交通事故による死者数は、4,411人で、12年連続の減少となった。また交通事故発生件数や負傷者数も8年連続の減少となっている。しかし年齢層別では、高齢になるほど死者数は多くなり、総人口に占める高齢者人口の割合は増え続けることから、今後も高齢者の交通事故防止は重要な課題である。
私は、もともとは、作業環境条件と作業能率との関係、高齢者の作業能力特性などを研究する「産業心理学」が専門である。高齢化社会の到来を迎え、車の運転も作業行動の一つということで、高齢ドライバーの運転行動特性を明らかにする共同研究に参加することになった。高齢者は生理的な機能低下は大きいにもかかわらず、自分の運転ぶりに強い自信を持っているが、実際の運転では、右左折時の安全確認がおろそかで、走行スピードも落とさないなど、多くの問題行動が明らかになっている。
高齢者は、自分は運転がうまいという強い自信を持ち、「高齢になると、確かに、生理的な機能低下は著しいが、自分は違う」というわけである。高齢ドライバーは本当に危ないのか、という問題は慎重に検討する必要があるが、安全を確保するためには、自分の運転行動を振り返ることのできる地道な教育活動が必要である。自動車教習所の協力を得て、自分の運転ぶりをビデオに収録し、それを見せて自分の悪いところを納得してもらうことで、見違えるように運転行動が変わる。教育効果の持続の研究も必要である。これまでの研究では、高齢者に対しては、教育によって改善された運転も、1年たてばその効果はほとんどなくなるという結果が示され、教育の回数や間隔も重要な課題である。
近年、高齢者の自転車事故も増え、自転車運転の安全研究を始めることにもなった。自転車の運転には免許がいらず、交通ルールを熟知しないで自転車を運転している人も多い。高齢者の場合、自動車の運転免許を持っていると、持っていない人に比べて自転車運転時の安全確認回数が多い事実が明らかになった。免許を持って、実際に車を運転することで自転車を運転する人の立場に立てることが安全に役立ち、安全知識を持つことで、お互いの立ち場をわかりあえるようになる教育の効果が示されたわけである。
高齢者の作業能力特性に関する実験を行ったことがある。シルバー人材センターで高齢の実験協力者を募り、組立作業プロセスを若年者(学生)と比較した。試行を重ねると、学生と高齢者で組立所要時間の差は小さくなり、高齢者にも技能習熟傾向が見られることが明らかになった。労働力不足を外国人労働者の雇用で補うのも一つの方向性ではあるが、経験の豊富な高齢者の有効活用も考える必要がある。何事もゆっくり行う高齢者の特徴をよく理解して、スピードを要求しない、新しく知識を必要としない方式を提供することが必要である。私たちの生活をより安全・快適にという「応用心理学」の目標を今後も追い求めたい。
【略 歴】
向井 希宏(むかい まれひろ)・中京大学心理学部教授
産業心理学・交通心理学。
大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
1953年生まれ