広がる位置検出技術の応用
~新たなロケーションサービスを創る
上林 真司 工学部教授

上林教授
上林教授

 携帯電話、スマートフォン、無線LANを中心に、様々な移動端末が普及すると共に、ロケーションサービスも多彩になってきた。カーナビは今や標準装備品であり、目当てのレストランや観光地もスマホが道案内してくれる。最近では、現在地周辺の観光案内、商業施設案内、お店の宣伝、主要施設への道案内など、位置情報を使ったサービス(ロケーションサービス)が多数開発されている。人の位置情報のビッグデータから、人の流れを解析しビジネスに利用する試みも始まっている。ビル影で見えない人の動きを検出し、事故防止に利用する研究もある。

 無線機を人以外のモノに装着し、モノの位置情報を利用するシステムも今後の拡大が予想される。工場内の自由移動ロボットは、自分の位置を自律的に検知できる必要がある。レスキューロボットが高度化すれば、簡易にテンポラリに災害現場での位置検出を可能にする技術が必要になろう。輸送物(商品、宅配便など)の位置を正確に把握できれば、発送者、発注者、関係者は、お互いに安心して契約できるようになる。魚や、鳥や、動物の位置を把握できることは、農業、漁業、畜産業にも、科学にも、自然保護にも有効であろう。センサ技術が注目されているが、多数のセンサを位置を特定せずにばら撒くようなシステムも考えられている。その場合は各センサが自律的に位置を検出する必要がある。

 このように、位置検出技術は多方面に拡大する可能性を秘めている。そのために高精度で高速で簡易で安価な位置検出技術の開発は重要である。これまでの位置検出技術は、GPS(Global Positioning System)など、衛星を使ったシステムが中心であった。衛星を使った位置検出は、移動端末(携帯電話機など)から4個以上の衛星が見通せる場所でないと検出精度が著しく劣化する問題があり、屋内など、上空が見渡せない場所では使えない。地上基地局を使った位置検出システムも開発されているが、やはり基地局と移動端末の間の見通しがないと検出精度が劣化する問題がある。屋内には、柱、陳列棚、壁、看板など障害物が多く、フロアの全エリアで位置検出を実現するためには、極めて多くの基地局を設置する必要があった。

 我々は、反射体を適当に配置するだけで、少ない基地局(最少は一基地局)で高精度の位置検出を簡易に実現する技術を研究開発している。この技術を用いれば、障害物の多い屋内で誤差1m以下の位置検出が可能であり、陳列棚の多いスーパーやデパートにおける欲しい商品の棚までのナビゲーション、高い備品棚などが林立する工場内における従業員や自由移動ロボットの位置追跡が可能になる。簡易なシステムのため、災害現場で迅速に位置検出システムを構築し、被災者の位置検出や、レスキューロボット、レスキュー隊員の位置追跡を実現できる(現在研究開発中)。

 無線機が簡易化、小型化した今、人だけでなくモノにも無線機を装着し、どんな場所でも位置検出が可能になれば、これまでにないロケーションサービスが爆発的に普及する可能性が予感されませんか?

 

【略 歴】

上林 真司(うえばやし しんじ)・中京大学工学部教授
電波工学
名古屋大学大学院工学研究科博士課程電気電子工学専攻修了・工学博士
1958年生まれ

2014/05/13

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