地域・世代格差小さい高学力が日本の強み
これからの少子高齢化に向けた不安も
相澤 真一 現代社会学部准教授
相澤准教授 |
昨年、2012年のOECD生徒の学習到達度調査(PISA)と国際成人力調査(PIAAC)の結果が発表された。この2つの調査結果から、日本の教育の強みと今後の日本社会における不安について触れたい。
まず、高校1年生を対象に行ったPISA2012の結果から日本の教育の特徴を見てみよう。この調査で日本は、トップではないもののトップグループを構成する一国として入っている。ただし、日本の教育の強みは、それ以外の点数の高い国がどこかを見ると、際立ってくる。「数学」「読解力」「科学」の三科目すべてにおいて、日本よりもPISAの点数が高い地域は、香港、シンガポールと上海(中国)のみである。すなわち都市国家と都市しか日本よりも高い成績を取っていないのである。日本のどこに生まれても、世界的に見て高い水準の教育が受けられること、これは国際的に見て、日本の教育における大きな強みである。山地が多く、大規模校を作ることのできる地域の限られる日本において、国、地方自治体、住民が一体となって、質の高い学校教育の場を全国津々浦々に作り上げてきたのである。
このような質の高い学校教育が長年行われてきたことを示していることが、もう一つの国際成人力調査(PIAAC)の結果からも示されている。この国際成人力調査では、先進国を中心に24か国の16歳以上65歳以下の個人を対象にして、「読解力」、「数的思考力」、「ITを活用した問題解決能力」を測定したものであった。この調査の結果、読解力と数的思考力の2項目において、日本は最も高い点数を示していた。
高い読解力、数的思考力が日本の産業や社会を支えているのは間違いない。不良品の少ない工業製品は言うに及ばず、列車の定時運行、打ち間違いの少ないレジ、どこに行っても一定水準以上のサービスが受けられること、このような日本社会の当たり前が、海外旅行に行くと当たり前でないことに気づかされる人は多いだろう。その日本社会における当たり前の能力の高さを支えているものの一つが日本の学校教育に他ならない。
ただし、これらの調査結果から推測できる点で2つの不安がある。第1の不安は、世界的に高度な教育の普及が進んでいる若年層では、日本の優位性が際立たなくなっている点である。16歳~24歳の若者に限った場合、韓国、オランダ、フィンランドなどと得点差がほとんどない。これは日本の若年層の点数が低いというよりも、先進諸国の若者たちが追いついてきていることを示している。国際競争の激しい昨今、より高度専門化した教育を国民全体に普及し続けないといけないプレッシャーにさらされていると言える。また、全世代において、「情報技術を用いた問題解決能力」では日本は高いとは言えず、社会の情報化に乗り遅れている可能性も示唆されている。
第2の不安は、少子高齢化に関するものである。この調査は65歳までしか対象にしていない。この調査でも示されているように、読解力や数的思考力は20歳代、30歳代を頂点にして、年を経ることによって下がっていく。例えば、最も高い20歳代後半に比べて60歳代前半は1割ほど点数が低くなっている。そのため、高齢化の著しい日本では、社会全体の能力が実質的に下がっていく可能性が危惧されている。
【略 歴】
相澤 真一(あいざわ しんいち)・中京大学現代社会学部准教授
教育社会学
東京大学大学院博士課程修了
1979年3月11日生まれ