官民市民協働で街づくりを
「スパイラルアップ」が鍵
伊藤 葉子 現代社会学部准教授
伊藤准教授 |
国際博覧会やオリンピック・パラリンピック等の開催は、開催国や会場周辺地域を大きく変える契機となっている。私が専門とする社会福祉学、特に障害者福祉の分野でも、1964年に東京で開催された「東京パラリンピック」が、日本における障害のある人の自立や社会参加に大きな影響を与えたことはよく知られている。
身近な例でいえば、2005年日本国際博覧会(「愛・地球博」)の開催と中部国際空港の開港は、愛知県下およびその周辺自治体の街づくりにも大きな影響を与えた。中部国際空港は、愛知県の平成17年度「第11回人にやさしい街づくり賞」の大賞を受賞している。多様な言語を使用する人が行き交い、車いすやベビーカーでの利用はもちろんのこと、大きな荷物を持って移動する場合等、使いやすいと実感した人は多いのではないだろうか。
2020年には「東京オリンピック・パラリンピック」の開催が決定し、2027年にはリニア中央新幹線の開業に向け、愛知県・名古屋市及び周辺自治体の街づくりは、今後、さらに大きな変化を遂げることが予想される。
その際、高齢者、障害のある人、地域住民等の利用者視点が反映されるような仕組みのもと、協議が重ねられることが肝要である。
2006年の「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)」に基づき制定された「移動等の円滑化の促進に関する基本方針」(平成23年改正)では、旅客施設や車両、道路、公園、建築物等について、より高い水準の新たなバリアフリー化の目標が設定された。また、視覚障害や発達障害等、情報に係る障害のある人への対応を含めた多様な障害のある人等への対応を具体的に実施することが推奨されている。こうした対応は、障害のある人のみならず、高齢者や訪日した外国人旅行者にも有効な手立てとなるだろう。さらに、施設設置管理者による職員等への教育訓練に関し、マニュアル整備や研修実施への高齢者や障害のある人等の意見反映や参画も推奨されている。
各市町村が作成した基本構想については、地域の高齢者や障害のある人等の当事者、市民が参加しつつ、関連事業の実施状況を把握・検証し、その結果に基づいて新たな施策や措置を講じることによって、段階的・継続的な充実・発展を図っていく「スパイラルアップ」の考え方が重要だ。「スパイラルアップ」は、計画・実施・検証・再実施の流れを継続的に計画に反映させ、らせんを描くように向上させることである。「バリアフリー法」では、スパイラルアップを国の果たすべき責務として位置付けるとともに、バリアフリー化の促進に関する国民の理解、「心のバリアフリー」を深めていくことも国の果たすべき責務として定めている。
中部エリアが今後一層、官民と地域住民が互いに理解し、相互に工夫を重ねながら協働することを通して、ハード面、ソフト面、ハート面に配慮した人にやさしい街へと変貌していくことを期待したい。
【略 歴】
伊藤 葉子(いとう ようこ)・中京大学現代社会学部准教授
社会福祉学(ソーシャルワーク論、障害者福祉論)
日本福祉大学大学院社会福祉学研究科社会福祉学専攻修士課程修了
1969年生まれ