新たな雇用形態「限定正社員制度」
安定雇用の救世主となり得るか
中山 惠子 経済学部教授

中山惠子教授
中山教授

 総務省が1月31に日発表した2013年平均の労働力調査によれば、雇用者全体に占める非正規雇用の割合は36.6%、過去最高の数値となった。

 一言で非正規雇用といっても、フリーターや契約社員、派遣社員の他、高齢者の再雇用、主婦のパート、学生のアルバイトなどその就業形態はさまざまである。しかし、非正規雇用の大半に共通するのが有期労働契約である。非正規労働者の中でも、特に問題となるのは正社員を希望してはいるものの雇用の機会に恵まれず、やむを得ず非正規で働いている不本意非正規就業者である。不本意非正規就業者は年々増加傾向を辿っており、世帯主である場合が多い契約社員や派遣社員にその比率は高い。

 非正規雇用労働者と貧困率の相関関係も指摘されており、低所得が非婚化、晩婚化、さらには少子化を助長させている。このような不安定な非正規雇用の広がりに歯止めをかけるべく、2013年4月、改正労働契約法が施行された。これにより、有期労働契約を反復更新し、通算5年を超える労働者が契約期間内に申し出た場合には、無期労働契約への転換が可能となった。無期労働契約に転換した労働者の条件は、期間以外は直前の労働契約と同一であるため、従来型の無期雇用とは一線を画す正社員の形態が受け皿として求められた。この要請に応えるのが、安倍政権が成長戦略の一環として普及・促進を図る限定正社員である。限定正社員とは、職種、労働時間、勤務地などを限定した無期雇用契約の社員をさす。限定正社員は、従来型正社員のように残業や転勤といった拘束を企業から強いられることはなく、育児や介護との両立、職務の専門性も高めやすく、非正規雇用に比して安定した雇用形態である。必ずしも従来型正社員を望んではいない非正規労働者にとって、新たな雇用形態の選択肢といえよう。しかし、給与、昇進、教育訓練など処遇面においては、従来型正社員には及ばない。したがって、限定正社員は、従来型正社員と非正規労働者のいわば中間に位置すると捉えられる。

 ただ、限定正社員は、業務縮小や勤務地閉鎖に伴い、解雇される可能性が高い。非正規雇用労働者の雇い止めが防止されたとしても、従来型正社員の処遇切り下げや解雇の手段として利用されるのではないかとの指摘もある。これは、限定正社員制度自体が不明瞭であることに起因する。労働者側は、雇用保障のあり方が明確にされない限り、新たな不安定雇用の創出や解雇の抜け道となってしまう懸念を捨てきれない。他方、企業側にとっても、限定正社員が労働力の確保・定着や人件費や余剰人員の削減につながるとはいえ、安易な解雇の可能性を信じ、その採用に踏み切るのは危険である。

 安定した雇用の実現と流動性の高い労働市場の形成によって経済再生を図るには、その起爆剤ともいうべき限定正社員制度が機能せねばならない。この制度を普及させるには、労使双方の納得のいく解雇ルールはむろん、雇用保障のあり方も含め、限定正社員制度の明確化が早急に求められる。


【略 歴】
中山 惠子(なかやま けいこ)・中京大学経済学部教授
ミクロ経済学
名古屋市立大学大学院経済学研究科博士後期課程修了・博士(経済学)
1959年生まれ

2014/04/15

  • 記事を共有