「近頃の若者」を褒めて伸ばすか叱って伸ばすか
褒められるだけでは成長を実感できない
潮 清孝 経営学部准教授

潮
潮准教授

 「近頃の若者は叱られるのが苦手」という言葉をよく耳にする。「近頃の若者」に対してどのように接すれば、彼ら・彼女らの意欲を引き出し、成長させることができるのか。多くの企業において共通する悩ましい問題なのではないだろうか。この点について、当の「近頃の若者」の一人である中京大学経営学部4年・木村護君による意欲的な調査の結果を紹介したい(一部、筆者による分析を加えてある)。

 木村君は、「アルバイトの満足における承認の関連性」をテーマとして、同2年生を主な対象とするアンケート調査を実施した(有効回答数77)。そこでは、マズローの5段階欲求説やハーズバーグの二要因説などをもとに、アルバイト先での他者による承認が業務の満足度に影響していると考え、統計的な分析を行っている。具体的には、「アルバイト先に対する満足度」、「褒められる頻度」、「叱られる頻度」をそれぞれ5段階で回答してもらい、それらの関係性を分析した。

 容易に予測し得る結果ではあるが、「満足度」と「褒められる頻度」の間には正の相関(r=0.445***)が確認された。また「満足度」と「叱られる頻度」の間には負の相関(r=-0.210*)が確認された(***は1%有意、*は10%有意を示す)。やはり、「近頃の若者」の満足度は、褒められると増加し、叱られると減少するのである。

 

図:「褒められ」と「叱られ」の差と満足度の近似曲線(n=77)

 

 しかし興味深いのはその続きである。各人の「褒められる頻度」と「叱られる頻度」の差を求め、その数値と「満足度」の関係性を分析すると、図のような近似曲線(3次多項式)が得られた(散布図のマーカーの濃淡は、度数の多少を示している)。先の結果から推察されるように、基本的には「褒められる頻度」が「叱られる頻度」を上回っているほど満足度が高いが、一方で、あまりにも褒められてばかりいると、逆に満足度は下がってしまうというのである。

 さらにグループに分け詳しく見ていくと、最も満足度が高いのは「褒められる頻度」が高く(4か5)かつ「叱られる頻度」が1以外のグループであり(満足度:4.30、n=23)、全く叱られない(「叱られる頻度」が1の)グループ(満足度:3.85、n=20)よりも有意に高かった(5%有意)。またこれは「褒められる頻度」が高く(4か5)かつ全く叱られない(「叱られる頻度」が1の)グループの満足度(3.92、n=13)よりも高い(ただし有意な差ではない)。

 厳密な議論を行うには追加的な調査が必要ではあるが、これらの点について木村君は、「学生アルバイトの背景として、(金銭面のみならず)経験や成長を期待していることもあり、たまには褒められることや叱られることがないと、成長を実感することができないからではないか」と結論付けている。

 一方でこの図からは、褒められることなく叱られ続ける方が、多少褒められるよりも満足度が高くなることも見て取れる。この点については解釈が難しいが、いずれにせよ「近頃の若者」の満足度を高め、成長を促すためには、褒めることを常に意識しながらも、叱るべき時にはしっかりと叱ることが最善であるということが示唆されている。そして最も重要なのは、そのような認識を、叱られる側である「近頃の若者」自身が持っているという点である。近頃の若者は、意外にも、叱られ上手なのかも知れない。


【略 歴】

潮 清孝(うしお すみたか) 中京大学 経営学部准教授
会計学・管理会計論
京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了・博士(経済学)
1979年生

2014/02/07

  • 記事を共有