若者の政治参加を促進するには
シティズンシップ教育の導入を
市島 宗典 総合政策学部准教授
市島准教授 |
若年層の投票率が低いと言われて久しい。投票率が低いということは、私たちの社会の意思決定にごく少数の有権者の意見しか反映されないと言っても過言ではない。このことを私たちは社会の一員として重く受け止めるべきではないだろうか。
選挙が行われる度に都道府県や市町村の選挙管理委員会は明るい選挙推進協議会などと協力して選挙啓発を行っている。その啓発事業の代表的なものとして啓発イベントがあるが、そこに参加するのは政治や選挙に対する関心の高い人たちが多い。また、啓発事業のひとつとして若年層の政治関心を高めるために学生ボランティアを募集したり、大学生のインターンシップを受け入れたりもしている。しかしながら、こういったものに進んで参加する若者は、そもそも政治関心が高く投票にも足を運ぶ人たちである。
このように、選挙啓発には時間と費用をかけているものが多いが、重要な視点が抜け落ちているように思われてならない。それは「ターゲットの明確化」である。
今日、特に投票率が低いのは若年層であるにもかかわらず、若年層をターゲットにした選挙啓発をどうするべきかについての議論は低調であり、結果として若年層の投票率を上げることに特化した啓発事業はあまり見受けられない。
では、どのような啓発を考えていくべきだろうか。まず、若者をターゲットとする啓発事業を行うためには、今どきの若者の実情をふまえることが必要である。
若年層の進学率と投票率の推移をみてみると、進学率の上昇に伴い、投票率が下降している状況を確認することができる。何不自由しない豊かな時代に生まれ、就職して社会とのしがらみを持つのも大学卒業後という若者が増え、それに伴って投票に足を運ばない若者が増えているというのが今日の状況である。
しかしながら、手をこまねいているわけにはいかない。このような状況の中でいかに若者に投票へ参加してもらうのかを考えていく必要があるだろう。それはつまり、このような背景をふまえた選挙啓発というものを考えていかなければならないということである。
選挙啓発には、選挙の有無にかかわらず常に行っていく常時啓発と選挙が行われる際に行う臨時啓発とがある。若年層にいわゆる投票の習慣を身に付けてもらうには、常時啓発への工夫が求められる。進学率の上昇に伴い投票率が下降していることを鑑みれば、高校を卒業する18歳から大学を卒業する22歳までに何かしらの啓発事業を組み込むことが必要だろう。自発的な応募形式を取るボランティアやインターンシップのみならず、政治関心が高くない若年層をターゲットとする啓発が求められる。
具体的には、諸外国で行われている、いわゆる「シティズンシップ教育」を導入することである。若者が市民としての権利とその役割を学び、民主主義社会の一員としての自覚を持つことを目的とするものである。
日本は自発的な有権者登録を求められず、20歳になると自動的に有権者名簿に登載される。また、投票も強制ではなく自発性に委ねられている。したがって、現在の日本では制度的に有権者となる自覚を持つ機会がほぼないと言っても過言ではない。
まずは、わが国におけるシティズンシップ教育の必要性を若年層に対する選挙啓発の観点から提起したい。
【略 歴】
市島 宗典 (いちしま むねのり) 中京大学 総合政策学部准教授
政治学・政治過程論
慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻後期博士課程修了
1976年生