日本企業の海外子会社
「創造型」への進化の可能性
銭佑錫 経営学部教授

銭教授
銭教授

 企業の国際経営をテーマに研究を始めて20年近くになろうとしている。振り返って見ると、日本企業の海外子会社を追いかける20年であったように思える。北米・欧州・アジアはいうまでもなく、人間が住む最南端の町であるアルゼンチンのウッシュアイアにも、アマゾン・ジャングルのど真ん中にあるブラジルのマナウスにも、アフリカ・チュニジアの奥地の荒野にも、日本企業があった。世界どこに行っても日本製品があるといわれて久しいが、今や世界どこに行っても日本企業そのものがある時代になったことを実感する。

 これらの海外子会社は企業内においても重要な部分を占めるようになってきた。地元のトヨタ自動車でいうと、日本国内の生産拠点が16ヶ所であるのに対して海外の生産拠点は52ヶ所もある。海外生産拠点で働く従業員数は175,296人に達し、国内生産拠点の63,911人をはるかに超えている。このような事情は大企業に限った話ではない。今年の夏、タイで訪問した日系メッキ工場の日本本社は資本金9,900万円、従業員500名の企業であった。タイのほかにも、シンガポール、マレーシアに生産拠点を持っているという。

 このように日本企業の大部分を占めるようになってきた海外子会社であるが、多くの日本企業においては、依然として本国本社から移転された技術やノウハウに依存しながら本国本社にいわれたことを実行するだけの「移転型」海外子会社にとどまっているようにみえる。これからの激しい国際競争を勝ち抜くためには、また苦戦を強いられている新興国市場で活路を見出すためには、海外子会社自らが何らかの競争優位の源泉を創出し企業のグローバル経営に積極的に貢献できる「創造型」海外子会社へと転換する必要があるのではなかろうか。海外子会社の数が急増して、日本本社が全ての海外子会社の面倒を見切れなくなったという事情も、このような必要性を後押ししている。

 従来、日本企業の国際経営は本国本社主導・日本人主導の中央集権型にその特徴があり、これを変えない限り日本企業で「創造型」海外子会社を実現するのは難しいといわれてきた。しかし、近年、少しずつではあるが日本企業においても「創造型」海外子会社の事例が見つかっている。たとえば、今年春に訪問した日本の大手自動車部品メーカーのタイ子会社では、アジア地域の生産拠点向けに機械設備を開発・製造していた。以前、日本本社でやっていた時と比べて、機械設備のコストが大幅に削減できたという。

 ここで注目すべき点は、本社主導の大きな枠組みの中で海外子会社の能力をしっかり育成したことが、そのベースにあるということである。その過程で、日本人駐在員が大きな役割を果たしたことはいうまでもない。海外子会社に創造的な役割を期待して、過度な自律を与えたり、早まった人の現地化を行ったりするだけでは、海外子会社は成長しない。まずは、本社主導・日本人主導で海外子会社をしっかり育てる。そうすることで海外子会社はむしろ独立的な仕事ができ、そのような経験が積まれることで成長し、やがては本国本社のグローバル事業に貢献できる創造的な海外子会社へと進化していけるのではなかろうか。


【略 歴】
銭 佑錫(ぜん うそく) 中京大学 経営学部教授
国際経営
東京大学大学院経済学研究科 博士課程単位取得後退学
1966年1月5日生

2014/01/06

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