すべての人に適切な居住の保障を
住居は生活の基盤
岡本 祥浩 総合政策学部教授
岡本教授 |
住居は「衣食住」と言い表されるように暮らしを支える重要な役割を担うが、その責任は個人が担っている。
ところで住居は土地に固定されているために不動産と呼ばれるが、次の役割を果たしている。第一に、地震や台風などの自然災害から命と身体を守る。第二に、暮らしに適切な温湿度、明るさ、静けさ、広さ、清浄な空気と水を提供し、健康を維持・増進させる。第三に、一日の活動の疲れを回復させ、新たな活力を生む。第四に、次世代を生み、育む。第五に、職場、学校、商店、医院、役所、文化・芸術施設、娯楽施設などに行きやすく、友人や知人などと交流しやすい立地や交通条件を備えて、暮らしの拠点となる。第六に、社会的信用や地位を形成する。第七に住宅に住所が割り振られることで社会的サービスが受けられる。
以上の住宅の役割は日本国憲法第25条で示す 「健康で文化的な最低限度の生活」の基盤となる。我が国も締約国である「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(通称「国際人権規約社会権規約」)第11条が示す「衣食住」の水準でもある。
日本の新設住宅着工比率は、2008年のリーマンショックまでは欧米の2~4倍程度の非常に高い水準であった。経済成長期を通して平均住戸面積が拡大し、住宅戸数も世帯数を2割程度上回り、10%を超える空家が生じている。しかし、全国で8千人程度のホームレスや少なくない人々が適切な住居で暮らせていない。
適切な住居で暮らせない原因は、高い住宅価格、狭い住宅と不十分な居住設備、保証人制度、他分野との連携の無さにある。
「高い住宅価格」は、長期の住宅ローンを生み、生涯の労働を住宅にささげる人も少なくない。限界に達している家計の住居費負担は、自然災害や事故など不測の事態で、容易に人々を居住困難に追い込む。
住宅は経済水準の向上に呼応して、規模と水準が向上してきた。小規模な住宅は新たな居住設備を整えられず廃棄され、新たな住宅が建設された。そのため日本の中古住宅市場は欧米と比べて無視できる規模である。新しい住宅のバリアフリー比率は高いが、古い住宅ほど進んでいないのは改造のための広さがないためでもある。
単身世帯が増えているが、契約時に保証人を求められ、契約できない者も多い。そうした環境が敷金・礼金・保証人を要しない「貧困ビジネス」を生む素地を造っている。高齢、障がい、低所得、外国人、刑余者など問題を抱えている者ほど居住困難に直面しているが、賃借人の死亡、病気、事故、トラブルの発生に大家が窮して、受け入れを拒むからである。
暮らしには様々な資源が必要であるが、居住者の経済的な活力がなくなると、居住地から商業施設がなくなり、「買い物難民」が生まれるように市場で提供されている資源はなくなる。医療、福祉、教育施設など多くの生活資源も同様である。
不適切な住居は困難な居住をもたらし、居住者の命や健康を守るために医療や福祉などの社会資源を余分に費やすことを余儀なくしたり、孤立する居住地を支援せざるを得なくなったりする。社会資源を効率的に活用するためにも生活の基盤である適切な住居の実現に努めなければならない。
【略 歴】
岡本 祥浩(おかもと よしひろ)・中京大学総合政策学部教授
居住福祉政策
神戸大学大学院自然科学研究科修了、博士(学術)
1957年生まれ