「すべての人に公平な高等教育の機会を」
白井 正敏 経済学部教授

 白井 正敏教授
白井教授

教育と所得の決定
 
教育や職場での訓練は人に対する投資とみなされる。教育を受けることは就業したときの職場での生産能力を高める効果を持つ。企業は労働者の生産性に応じて賃金を支払う。教育後に上昇した賃金は教育の収益とみなされる。人的資本理論は、合理的な人は、教育の費用を差し引いた純収益を最大にするように教育を決定すると考え人々の教育水準の決定および所得決定を理論化した。人的資本理論は、それゆえ、個人間の所得分配を決定する最も有力な理論と見なされた。

能力と教育
 
教育投資決定は、個人の生まれつきの能力に大きく依存する。人々の人的資本形成は教育水準と同時に生まれつきの能力にも依存する。生まれつきの能力の分布に応じて、人的資本も分布する。こうして人的資本形成は個人間の稼得能力=所得の分布を決定する。能力の分布は与えられたものであるが、教育の選択は変えることが可能である。人的資本理論は、個人間の教育資源の配分を通じて所得分配を変えることが可能であることを示唆している。

誰が教育されるべきか
 
異なる能力の個人の間にいかに教育資源を配分するかは教育政策の重要な問題の一つである。この問題を解決する原則として教育の「機会均等原則」がある。この原則は、個人の教育を受ける機会が本人の能力ではなく、本人またはその親の所得に依存してはならないというものである。教育の機会均等原則を保証するためには、無料あるいは定価の授業料で教育を提供するか、教育補助金、奨学金を支給する方法により、教育の機会が本人および親の所得と独立にする教育政策が採用されなければならない。しかしながら、教育の機会均等原則は、教育の配分原則としてはきわめて不十分である。まず第1に、異なる個人の間に教育機会我どのように与えられるべきかを明らかにしていない。一般に、能力の高い個人により大きな教育機会が開かれ、結果としてより大きな経済的機会が開かれている。このことは結果として、教育機会の均等原則が所得分配の不平等を助長することを意味する。第2に、一般に個人にとって教育そのものが目的ではない。教育の結果としての経済機会の獲得が目的である。したがって、教育機会の均等原則は、教育の便益を考慮して、経済機会の個人間の平等が達成されるように教育を配分する原則を与えなければならない。

教育は過剰か
 
現在、我が国の高等教育進学率は57.6%であり、半数近くの若者は高等教育を受けていない。2011年OECD諸国の高等教育進学率の平均が56%であり、オーストラリア、フィンランド、韓国、ニュージーランドはじめ多数の国の高等教育進学率は70%を超えている。また、我が国の進学率は親の所得と大きく相関している。高所得層の進学率は高く、低所得層は低い。すべての国民が生涯でいずれかの時に高等教育を受けられるのが理想とすれば現実は 理想とほど遠い。国公立・私立の設置方法、授業料の水準、奨学金支給方法、すべての年齢層に教育機会を提供することが可能な社会的制度など、外国に学び改革する余地は十分にあると思われる。

【略 歴】
白井 正敏(しらい まさとし)・中京大学経済学部教授
財政学、教育経済学
名古屋大学大学院経済学研究科・博士(経済学)
昭和24年6月29日生まれ

2013/01/15

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